2023年5月12日
トランプ前政権下の2020年3月に導入された移民流入制限措置「タイトル42」が5月11日に失効した。
タイトル42の下では、米税関国境警備局 (CBP) 職員が移民裁判所の判断を仰ぐ機会を与えずに、
移民、特に亡命希望者を国境で拒否することができた。
この措置が解除され、数万人の移民が米南部の国境域全体で処理されることになる。
亡命請求を持つ人々は、国境検問所のCBP職員に必要書類の提出が可能となり、中南米から
「移民の波」が一気に押し寄せる状況への警戒が高まっている。
米南部のメキシコ国境地帯には最大4,000人規模の軍や州兵が展開。
深刻な党派対立で米国の方策は一貫性を欠き、新天地での生活に望みを懸ける人々を止める術 (すべ) は見えない。
▽苦境
バイデン政権の寛容な移民政策への期待に加え、新型コロナウイルス禍も一段落した。
感染拡大防止を理由にしたタイトル42の失効が人々の背中を押す。
中南米諸国では強権体制による抑圧や劣悪な治安、厳しい経済環境から逃れようと多くの人々が米国を目指す。
入国を試みる人の数は高止まりしており、CBPによると、不法入国者の身柄確保の回数は昨年12月に過去最高の約252,000回を記録した。
ティフアナの国境地域では推定10,000~16,000人が越境しようと待機している (ティフアナ当局者談)。
サンディエゴに到着すると、カトリック教会などが支援する避難所へ向かう。
そこでの平均滞在期間は0.8~1.2日。
スタッフやボランティアは彼らに食料や水を提供し、最終目的地への移動を手伝う。
米国入りした人々の98~99%は最終目的地が決まっているという。
ニューヨーク、カリフォルニア、フロリダ、シカゴなどの都市部を中心に全米に散らばり、家族、スポンサー、友人、知人などが彼らを受け入れる。
最大の問題は、避難所の収容能力を超えると、米移民・関税執行局 (ICE) と CBPが移民を解放すること。
幼い子供たちを連れた母親や妊婦、病気の高齢者が路上に放り出されると、彼らは自分たちがどこにいるのか分からない状況になる。
母国での迫害を逃れた弱い立場の移民たちは、再び生命の危機に晒される。
食料支援団体を率いる女性の一人は「米国に来て働きたいと願う多くの人が後を絶たない、米国も労働者を必要としている」と話し、現実的な解決策が必要だと強調する。
▽破綻
厳格な移民政策を掲げたトランプ前大統領は「国境の壁」建設を推進。
タイトル42も亡命希望者の申請を審査しないまま即時送還することができるため、新型コロナ対策の名を借りた「移民排除」との批判が出ていた。
2021年1月に発足したバイデン政権は「国境の壁」建設を中止し、タイトル42を撤回しようとしたが、移民の殺到で入国管理体制は逼迫 (ひっぱく)。
タイトル42に基づいて送り返された移民は約3年間で延べ約280万人。
大半はバイデン政権下だ。
政権は中南米諸国の貧困や汚職などが移民増加の原因と指摘。
経済支援など関係国との連携を模索するが、効果が出るまでには時間を要する。
AP通信などの今年2月の世論調査では、バイデン政権の移民政策を支持しないとの回答は58%で、支持の39%を上回った。
「移民に関する制度自体が破綻している」。
国境管理を担当するアレハンドロ・マヨルカス国土安全保障長官は11日の記者会見で、議会に抜本的な対策法制定に取り組むよう求めた。
これに対し、共和党は同日、多数派を握る下院で「国境の壁」建設再開を含む移民対策強化の法案を可決。
上院は民主党が多数派を占め、通過の見込みは立たないものの、政権を揺さぶる。
(2023年6月1日号掲載)