2021年12月1日
従業員の人事評価に人工知能 (AI) を活用する動きが広がっている。
評価する側は公平性の向上を強調するが、AIの判断力に不信感を抱く社員は多く、導入には賛否両論がある。日本IBMでは評価システム導入の是非をめぐり労使トラブルに発展。
東京都労働委員会での審査の行方に注目が集まっている。
▽給与額を提示
「人事評価や賃金決定に関与するAIシステムの情報開示が足りない」。
日本金属製造情報通信労働組合・日本IBM支部の杉野憲作書記長は強く主張する。
事の発端は、2019年に日本IBMが社内に通知したAI評価システムの導入だ。
自社開発のAI「ワトソン」を活用し、スキルや専門性など約40項目にわたって社員を分析し、妥当な給与額を自動で提示する。
会社側は、最終的な判断は上司である人間が行うと説明するが、杉野書記長は「AIが何をどのように分析するのか、よく分からない」と疑問を呈す。
組合は評価の仕組みに関する詳細な解説を求めたが、会社側に拒否されたという。
日本IBMは過去に大幅な賃下げをめぐり裁判沙汰になったこともある。
AI活用が口実となって人件費の削減につながりかねないとして、労組は昨年4月、都労働委に救済を申し立てた。
人事AIの是非を公の場で問うのは日本国内では珍しい。
新型コロナウイルスの流行で審査の進捗は遅れ気味だが、近く証人尋問で両者が向かい合う予定だ。
会社は「十分に説明を尽くしている」と主張。
歩み寄りの姿勢は見えない。
▽信頼性に懸念
人事AIの導入を急速に進めているのは新卒採用だ。
大量の入社志望者を評価する必要があり、業務の効率化が以前から求められていた。
大手銀行は今年からオンライン面接をAIで評価する実験を始めた。
一方、AIの信頼性に対する懸念は強い。
海外では女性の応募者を低く評価していたことが判明し、米アマゾン・コムがAIを使った採用を中止した。
欧州連合 (EU) は4月に公表したAI規制案でAIによる人物評価を倫理的に「高リスク」と分類。
ニューヨーク市議会は11月、AI採用システムに対し、透明性に関する監査を毎年義務付ける法案を可決した。
日本ではAIで算出した内定辞退率を販売し問題化した「リクナビ事件」の影響もあり、AI活用を十分に説明していない企業もある。
大阪大社会技術共創研究センターの工藤郁子・招聘 (しょうへい) 教員は「企業は応募者や社員に対する説明責任を果たすべきだ」と指摘した。
(2021年12月16日号掲載)