2023年7月15日
ハリウッド俳優ら約16万人が加入する全米映画俳優組合 (The Screen Actors Guild=SAG) がストライキに突入し、映画や番組の制作会社があるニューヨークやロサンゼルスで7月14日、ストに参加した俳優らが組合員の待遇改善を訴えた。
報酬や人工知能 (AI) の扱いをめぐって制作会社側との立場の隔たりは大きく、長期化すれば、経済損失は40億ドル (約5,500億円) に上るとの試算も出ている。
米メディアによると、俳優と脚本家の組合による同時ストは1960年以来、63年ぶり。
俳優らは作品への出演だけでなく、宣伝などの活動も制約されるため、一部で新作公開イベントの
取りやめが決まり、来年公開予定の作品の中には撮影中止に追い込まれたケースも出るなど、余波が
広がっている。
米メディアによると、ニューヨークのNBCユニバーサル前にはドラマ “Ted Lasso” (邦題:「テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく」) の俳優ジェイソン・サダイキスさんが駆けつけた。
ハリウッドにあるネットフリックスのオフィス前では映画『ロード・オブ・ザ・リング』で知られるショーン・アスティンさんもストの列に加わった。
組合側は動画配信サービス普及による構造変化に対応した報酬支払いを要求。
AIも争点の一つで、作品などを機械学習に用いる際の同意取り付けや、公正な対価の支払い、誤用・悪用に対する保護措置の取り決めなどを求めている。
ニューヨークでストに参加した俳優スーザン・サランドンさんは、制作側が「我々の懸念に向き合ってさえいない」と批判した。
新作のスパイスリラー・ドラマ “Special Ops: Lioness” (スペシャル・オプス・ライオネス) の出演者がレッドカーペットに登場する7月18日のロサンゼルスでのイベントは中止。
来年公開が予定されるトム・クルーズさん主演の映画 “Mission Impossible” (ミッション・インポッシブル) シリーズの続編も撮影中止に追い込まれた。
米シンクタンク、ミルケン研究所 (The Milken Institute) のケビン・クローデン氏は、5月から続く全米脚本家組合 (Writers Guild of America=WGA) のストと合わせ、早期解決に至らなければ経済損失は40億ドル超の巨額に及ぶ恐れがあると指摘。
ハリウッドのお膝元、ロサンゼルス市のカレン・バス市長は声明で「公平な合意」の実現を急ぐよう双方に呼びかけた。
9月には米テレビ界の最優秀作品に贈られるエミー賞の発表・授賞式が控えるが、組合側と制作会社側の隔たりは大きく、ストが長期化すれば「延期されそう」 (ニューヨーク・タイムズ紙) との見方が出ている。
*写真左上:ピケ隊列を組む全米脚本家組合と全米映画俳優組合の会員 (7月14日)
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▪︎全米映画俳優組合 (SAG):米国の映画・テレビ俳優が加盟する労働組合。大手の映画製作会社から俳優が不当条件で強圧的な契約を強要されないことを目的とし、適正報酬、福利厚生、労働環境の改善を求めて1933年に設立された。
(2023年8月1日号掲載)