2023年2月9日
バイデン大統領 (80) は2月7日夜、上下両院合同会議で一般教書演説に臨んだ。「われわれの民主主義は今も不屈だ」と述べ、約2年前の議会襲撃事件がもたらした危機を克服したと訴える。
新型コロナウイルス流行を乗り越えたともアピール。
2024年大統領選への再選出馬をにらみ、政策実現へ「協力できない理由はない」と超党派の協力を呼びかける。
バイデン氏の一般教書演説は2回目で、野党共和党が下院多数派を握ってからは初めて。
政権2年間の実績を強調し、約40%と低迷する支持率の向上につなげたい考えだ。
バイデン政権は中国の偵察気球が米国上空に侵入したことを問題視し、2月上旬に予定したブリンケン国務長官の中国訪問を延期した。
中国の偵察気球を米軍が撃墜して緊張が高まる米中関係や、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの言及も焦点となった。
共和党でウクライナ支援の予算見直しを求める声がある中、世界のエネルギー、食料供給にも悪影響を及ぼしているロシアの侵攻を非難し、北大西洋条約機構 (NATO) や、日本が議長国を務める先進7か国 (G7) と連携してウクライナを支え続けると表明した。
新型コロナの流行で悪化した経済を改善させた功績を誇示。
1月の失業率が3.4%で1969年以来の低水準となったことや、約1,200万人分の雇用を創出したことなどの成果を列挙しながら、政府の債務上限引き上げ問題で対立する共和党に協力を促した。
また、28年ぶりとなった本格的な銃規制法も強調し、殺傷力の高い銃の販売禁止などさらに厳しい措置を目指す意欲を示した。
就任2年、実績誇示するも、機密文書で苦境
就任から2年となったバイデン大統領は、インフレ抑制法や銃規制強化法を超党派で昨年成立させた実績を誇示し「多くを成し遂げた」と強調した。
だが、演説に新味はなく、バイデン氏は私邸などへの機密文書持ち出しの事実公表が大幅に遅れて批判を浴び、苦境に陥っている。
機密文書問題が収まる気配はない。
昨年11月に問題を把握しながら、1月9日に米メディアが報じるまで公表していなかった。
非難が噴出する中、政権は司法省が捜査中だとして説明を避け続けている。
昨年11月の中間選挙で下院の多数派を野党共和党に奪われ、議会対策は困難さを増した。
政府の借入限度額を定める債務上限をめぐる対立が再燃しているのも頭痛の種だ。
債務上限問題では共和党と交渉しない方針だったが、バイデン氏は1月20日、共和党のマッカーシー下院議長と「話し合う」とし、姿勢を軟化させた。
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*渡辺靖・慶応大教授 (米国政治) の話:外交よりも内政に比重を置いた内容だった。支持率が高くない中での再選出馬表明を見据え、有権者の関心が高い経済や医療といった身近な問題に焦点を当てた。党派対立を避け超党派協力を訴える色彩が強く、世論を二分する人工妊娠中絶などでは各論に踏み込まず自制した。中国への強硬姿勢の表明には総立ちの拍手が送られた。一方、共和党を批判してブーイングが起きた場面もあり、今後の議会運営の難しさを象徴した。同盟国の日本は米国の対中強硬姿勢とは無関係でいられない。サプライチェーン (供給網) の拠点を米国内に置くという主張も、日本が知っておくべき米国の立場だろう。
(2023年2月16日号掲載)