2023年12月3日
米国で若者を中心にイスラエル離れが進んでいる。
ユダヤ系ロビー団体が政財界に大きな影響力を持ち、長年にわたり後ろ盾になってきた米国では、イスラエル批判を公言することは避けられる風潮にあった。
だが、パレスチナ自治区ガザでの人道危機を受け、抗議デモが頻発。
一部企業は「反ユダヤ主義だ(anti-Semitism)」と反発し、憎悪犯罪 (ヘイトクライム) も増加する。
▽ジェノサイド
「ガザを解放せよ」。
11月9日、ニューヨーク中心部に数千人が集まったデモには、高校生や大学生の姿が目立った。
「SNSで多くの民間人犠牲者の姿を見て、抗議の意思を示すために来た」
高校3年生サッチェルさん (17) は友人らと初めて参加した。
建築業ナリーさん (30) は「米国はイスラエルを支援しているので、自分の税金がガザでの民族大量虐殺 (ジェノサイド) に使われることになる」と憤る。
2人とも名字を明かすのはためらう。
マスクで顔を半分隠す参加者も。
「反ユダヤ主義だと報復に遭うかもしれない」
サッチェルさんが不安げに話した。
11月29日には、恒例の巨大クリスマスツリーの点灯式が開かれたロックフェラーセンター周辺でも抗議デモがあり、警察との小競り合いが起きた。
▽世代間格差
イスラム組織ハマスの奇襲で戦闘が始まった10月7日、ハーバード大の学生団体がパレスチナへの抑圧的な占領政策を強調し「責任は全面的にイスラエルにある」との声明を出した。
投資会社の経営者らは即座に反発し「関係学生は雇用しない」として氏名の公表を大学側に求めた。
イスラエルへの抗議が他の大学にも広がると、複数の有力法律事務所は大学側に「反ユダヤ主義」の取り締まりを要求。
コロンビア大などは親パレスチナの学生グループの活動を制限した。
CNNテレビの10月の世論調査によると、イスラエルの軍事的対応を「正当化できる」と回答した割合は65歳以上で93%。
しかし、18~34歳では57%に留まり、世代間格差が鮮明になった。
▽転化
イスラエル、パレスチナそれぞれへの批判は、ヘイトクライムに転化している。
10月14日、イリノイ州でパレスチナ系米国人の男児 (6) が自宅で大家の男 (71) に26回刺されて死亡。
男は「イスラエルの出来事に怒りを覚えた」と語った。
10月31日には「学内で撃ち殺す」とユダヤ系への殺害予告を投稿したとして、ニューヨーク州にあるコーネル大の男子学生 (21) が逮捕された。
11月25日にはバーモント州でパレスチナ出身の男子大学生3人が白人の男 (48) に路上で突然撃たれた。
「教師たちもガザでの衝突を生徒にどう説明すればいいのか悩んでいる」
ユダヤ系とパレスチナ系が共に通うニューヨーク市の学校でカウンセラーを務めるページさん (33) は「少しでも片方の立場を擁護すれば、もう片方から強く糾弾されてしまう」と吐露した。
*写真は、ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃に反対し、ニューヨークの42丁目周辺で集会を開いたイスラエルとパレスチナの支持者たち (10月9日=ニューヨーク)
*Picture:© lev radin / shutterstock.com
(2023年12月16日号掲載)