Friday, 26 July 2024

尿失禁=尿もれ Urinary Incontinence(2018.3.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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尿失禁=尿もれ 

Urinary Incontinence

       
       

尿失禁 (尿もれ) は自分の意思と関係なしに尿がもれることですが、程度は軽い尿もれから、まったく排尿をコントロールできない重度の尿もれまであります。

尿失禁は命にかかわる病気ではないですが、日常生活、社会生活に大きな影響を与え、活動範囲が制限されることがあります。

 

 

尿失禁の種類

尿失禁は次の5種類に分類されます。

 

■ 腹圧性尿失禁 (Stress Incontinence)

膀胱に圧力がかかって起こる尿失禁です。咳、くしゃみ、大笑い、重いものを持ち上げた時に起こります。排尿を制御する膀胱括約筋を含む骨盤底筋群が緩くなることが原因です。出産を経験した女性に多い尿失禁です。

 

■ 切迫性尿失禁 (Urge Incontinence)

強い尿意 (尿意切迫感) のために、尿がもれてしまいます。夜中に何度も起きて排尿しないといけないようになります。高齢者、前立腺肥大、過活動膀胱、膀胱炎、子宮脱、骨盤臓器脱、神経障害、糖尿病などが原因になります。

 

■ 尿失禁 (Overflow incontinence)

膀胱が尿を完全に空にできなくて、尿が溜まってしまい尿もれを起こします。自分で排尿したいのになかなか排尿できないのです。男性に多く、前立腺肥大、尿路系の腫瘍、糖尿病、薬物などが原因になります。

 

■ 機能性尿失禁 (Functional Incontinence)

排尿機能には異常がないのに、身体的あるいは精神的な障害があり、排尿するまでにトイレに行き着くことができないで尿もれを起こします。例えば足に麻痺があり、トイレに行く途中で尿もれを起こしてしまうような。

 

■ 混合型尿失禁 (Mixed Incontinence)

いくつかのタイプの尿失禁が同時に存在します。

 

 

尿失禁の原因

尿失禁は病気ではなくて症状です。

原因となるのは、日頃の習慣、基礎疾患、身体上の異常など、いろいろです。

 

■ 一過性の尿失禁の原因

一過性の尿失禁は短期間の尿失禁で、原因を取り除くと比較的簡単に正常に戻ります。この原因になるのは、飲み物、食べ物、薬物などです。例えば、アルコール飲料、カフェインの入った飲み物、炭酸飲料、人口甘味料、チョコレート、チリペッパー、スパイスや砂糖あるいは酸度の高い食品 (かんきつ類)、薬 (利尿薬、鎮静剤、筋弛緩薬など)、大量のビタミンCの摂取などが尿失禁の原因になります。それ以外の原因としては、膀胱炎や便秘などの疾患です。

 

■ 慢性的な尿失禁

慢性的な尿失禁は長期間にわたって続く尿失禁で、原因を取り除くことが容易ではありません。

<妊娠> ホルモンの変化と子宮が大きくなっていくことによって腹圧がかかります。

<出産> 通常の出産をすると、骨盤底筋群を緩くしたり、神経や支持組織に障害が出てしまうことがあります。そして、骨盤底にある様々な器官 (膀胱、子宮、直腸など) を押し下げてしまいます。それによって尿失禁が起こります。

<加齢> 加齢によって膀胱括約筋の機能が低下し、膀胱の容量が少なくなっていきます。また、膀胱の不随意な収縮がより頻繁になります。

<閉経> 閉経するとエストロゲンの分泌が下がり、膀胱や尿道の粘膜を正常に維持するのが困難になってきます。

<子宮の摘出> 女性の膀胱と子宮は同じような筋肉と腱によって支えられています。子宮全摘などの手術は骨盤底筋群に損傷を与える可能性があります。

<前立腺肥大> 男性が高齢になると前立腺肥大による尿もれが起こります。

<前立腺がん> 男性で、腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁が前立腺がんで起こります。また、前立腺がんの治療でも尿もれが起こります。

<尿路の閉塞> 尿路に腫瘍があると尿路を閉鎖し、溢流性尿失禁が起こります。尿路結石も原因になります。

<神経学的異常> 多発性硬化症、パーキンソン病、脳卒中、脳腫瘍、脊髄損傷などは神経系の異常で尿もれを起こします。

<その他の原因やリスク> 肥満は余分の体重が膀胱と周りの筋肉を圧迫することになり、その働きを弱め、尿もれを起こします。喫煙や家族歴もリスクになります。

 

 

尿失禁の診断

問診、診察によって、およそどのタイプの尿失禁があるのか判断します。

わざと咳をしたり、力んで尿もれをするか試したり、一般的な尿検査や血液検査をします。多量の水分を摂取した後にどれだけ尿もれ起こすかを測定するパッドテストや、排尿日誌を数日間つけて、1日の水分摂取量、尿量、排尿、尿意と尿もれの回数や関係を記録してもらいます。排尿後に膀胱にどれだけ尿が残っているかを調べる残尿量の測定は、排尿後にカテーテルの挿入や超音波検査 (エコー検査) で行います。

多量の尿が膀胱に残っていると、尿道に閉塞があるのか、排尿に関する神経や筋肉に障害があるのかを意味します。

さらに、膀胱尿道造影検査、尿流動態検査、膀胱鏡検査などが必要になることもあります。

 

 

尿失禁の治療

尿失禁の治療は、尿失禁のタイプ、尿失禁の程度、基礎疾患の有無などによって違ってきます。異なる治療法を組み合わせる方法もあります。

 

■ 膀胱訓練

尿意を感じたらすぐに排尿をするのではなくて、10分ほど待ってから排尿します。そして、その時間を次第に延ばしていきます。ゴールは2時間半から3時間半毎の排尿で済むようにします。

 

■ 2回排尿

特に溢流性尿失禁に向いています。膀胱をなるべく空にするのが目的です。一度排尿したら2〜3分後にまた続けて排尿します。

 

■ 排尿時間を決める

排尿を2〜3時間毎に行うようにします。

 

■ 水分と食事制限

アルコール、カフェイン、酸度の高い食品を制限します。水分摂取を抑え、体重を減らし、運動量を増やします。

 

■ 骨盤底筋訓練 (ケーゲル体操−Kegel Exercise) 

ケーゲル体操は骨盤底筋群を鍛えることによって、尿もれを防ぐ方法なのです。腹圧性尿失禁に有効ですが、切迫性尿失禁にも効果があります。

おしっこを止める筋肉を収縮させます。それを2−5秒維持します。そして3〜5秒弛緩します。次第に時間を長くしていき、最終的に10秒筋肉を収縮させ、10秒弛緩するようにします。これを10回繰り返し、1日3セット行います。

 

■ 電気刺激

電極を一時的に直腸や膣に挿入し、それを刺激して骨盤底筋群を強くするのです。数か月の間に何回かの治療が必要になります。

 

■ 薬物治療

<抗コリン薬> 過活動膀胱を和らげ、切迫性尿失禁の治療になります。oxybutynin (商品名:Ditropan XL)、tolterodine (Detrol)、darifenacin (Enablex)、fesoterodine (Toviaz)、solifenacin (Vesicare) and trospium (Sanctura) などの薬があります。

<ミラベグロン> Mirabegron (Myrbetriq) この薬は膀胱の筋肉を弛緩させることによって、膀胱が許容できる尿の容量を増やします。1回当たりの尿量を増やし、膀胱を空にするのを助けます。

<アルファ遮断薬> 男性で溢流性尿失禁のある場合、この薬は膀胱の入り口の筋肉と前立腺の筋線維を弛緩させ、膀胱を空にするのを助けます。 tamsulosin (Flomax)、alfuzosin (Uroxatral)、silodosin (Rapaflo)、doxazosin (Cardura) and terazosin などの薬があります。

<局所エストロゲン> 女性の場合、エストロゲンの膣クリーム、リング、パッチなどを利用して尿道や膣を活性化させます。

 

■ 非薬物治療

ペッサリーは膣の組織を支え、子宮が下がる (子宮脱) のを防ぎます。尿道挿入具は小さなタンポンのようなもので、運動や身体活動をする前に尿道口に差し込んで尿もれを防ぎます。仙骨神経刺激装置は外科的に膀胱の活動を制御する装置で、おしりの皮膚の下に留置します。尿道の周りに膨張剤を注入し、尿道を狭くし、尿もれを防ぐ方法もあります。ボトックス注射は過活動膀胱のある人の膀胱括約筋に注射します。

 

■ 外科手術 

以上の治療で改善のない時は、外科手術の対象になります。膀胱頚 (ぼうこうけい) や尿道を支えるスリングを外科的に留置したり、骨盤臓器脱や子宮脱の手術、人工括約筋の埋め込みなどがあります。

 

■ 医学的な治療が効果のない時

尿もれパッドやおむつ、男性の場合は尿もれ防止具を使用します。膀胱が適当に空にならない時、柔らかい管 (カテーテル) を尿道に挿入する方法もあります。

 

 

自分でできること

尿もれによる皮膚の刺激に対しては、きれいに皮膚を拭き、皮膚を乾燥させます。

洗いすぎないようにし、皮膚にワセリンやココアバターを塗って予防します。

夜中に何度もトイレに行く人は、つまずきや衝突予防のために、ラグや家具をトイレまでの経路に置かないようにします。

また、夜間ライトをつけておきます。

機能性尿失禁のある人は、ベッドの近くにオマル (携帯トイレ) を置いておきます。

また、トイレの入り口を広くしておくなどの配慮も必要です。

 
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(2018年3月1日号掲載)