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金 一東
日本クリニック・サンディエゴ院長 |
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脳炎 Encephalitis |
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夏はキャンプなど野外活動を行う機会が増え、蚊やダニにかまれることも多くなります。 蚊やダニの中には、脳炎の原因になるウイルスに感染しているものもあるので、蚊やダニにかまれない注意が必要です。 アメリカでは毎年約25万人が脳炎に罹患しています。 2015年には、世界中で430万人が脳炎に罹患し、15万人が死亡したと推測されています。 日本脳炎だけをみても、毎年世界中で3〜4万人の感染報告がありますが、そのほとんどは中国南部、東南アジア等での発生で、日本での発生はほとんどありません。 日本では1966年には2,017人の発生をみましたが、その後、ワクチンの定期接種により、発症数は激少し、近年は年に数人のみの発生になっています。
脳炎とは 脳炎は、脳の炎症で、そのほとんどがウイルスによる感染が原因になります。 ウイルスが体内に侵入し感染すると、炎症によって脳の細胞が膨れます。脳が膨れると脳の神経細胞が死に、脳に出血が起こり、脳が損傷を受けてしまいます。 こうした脳の炎症・損傷過程によって様々な症状が生じます。 脳炎は原発性脳炎と続発性脳炎に区別されます。原発性脳炎は、ウイルスなどの病原体が直接脳に感染した脳炎。 過去に感染して不活化し、再発する場合もあります。 続発性脳炎は、脳以外の体の部位にまず感染し、それに対する体の免疫防御反応が、感染源の病原体だけでなく自身の脳も攻撃してしまうのです。 感染後脳炎とも呼ばれています。 大半が最初の感染の約2〜3週間後に発症します。
脳炎の原因 ウイルス感染以外の原因としては、ワクチンに対するアレルギー反応、自己免疫疾患、ライム病などの細菌感染、梅毒、結核などによる感染。 寄生虫による感染。悪性腫瘍によるものなどがあります。 ウイルスによる感染は、感染者からの飛沫感染、食べ物や飲み物を介して、蚊やダニなどの虫にかまれて、皮膚の直接接触などを通じて起こります。 地域によって原因を起こすウイルスが違っていたり、特定の季節に起こりやすいウイルス性脳炎もあります。 原因になるウイルスとしては、まず重症化しやすい単純ヘルペスウイルスが挙げられます。 単純ヘルペスウイルスは風邪をひいたり、疲れた時に出やすい口の周りの口唇 (こうしん) ヘルペスを起こす主に1型と、性器にできる性器ヘルペスを起こす主に2型に区別されます。 他のヘルペス科のウイルスとしては、伝染単核症を起こすEBウイルス、水疱瘡 (みずぼうそう) や帯状疱疹 (たいじょうほうしん) を起こす帯状疱疹水痘ウイルスがあります。 風邪症状や目の炎症、腹痛の原因になるエンテロウイルス (ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルスを含みます)。 蚊によって媒介されるウイルスとしては、ウエストナイル、ラクロッセ、セントルイス、西部及び東部ウマ脳炎ウイルスなどがあります。 蚊に刺されて数日から2〜3週間後に症状が出ます。 ダニに媒介されるウイルスとしては、ポワサンウイルスがあり、アメリカ中西部でよくみられる脳炎を起こします。 症状はダニにかまれて1週間後くらいに症状が出現します。 狂犬病ウイルスは、狂犬病に感染している動物に噛まれて感染するのが普通ですが、症状が出現すると脳炎に早く進行します。 アメリカでは珍しい脳炎です。 子供がなりやすい脳炎の原因ウイルスとしては、はしか (麻疹)、おたふく (流行性耳下腺炎) 、風疹、水痘症 (みずぼうそう) などの原因になる各ウイルスがあります。 他に原因となるウイルスとしては、アデノウイルス、サイトメガロウイルス、日本脳炎ウイルスなどがあります。
リスク因子 年齢によってかかりやすい脳炎は違ってきますが、幼少の子供や高齢者、HIVやAIDSにかかっている人など免疫の低下している人は脳炎にかかるリスクが高いです。 蚊やダニが媒介する脳炎は、感染する地域が限られていることがあります。 また、蚊やダニが媒介する脳炎は夏に多いのが特徴です。
脳炎の症状 脳炎は風邪のような軽い症状だけのことや、症状がほとんどないこともあれば、非常に重症になることもあります。 時には命にかかわることもあるので、迅速な診断と治療が必要なのです。 脳炎の症状が出る前に、風邪症状や胃腸症状が始まる場合があります。脳炎の症状としては、発熱、頭痛、嘔気 (おうき)、嘔吐 (おうと)、食欲低下、眠気、精神的混乱、首の硬直、疲労 などです。 重症になると、意識障害や喪失、反応鈍磨、昏睡、筋力低下、麻痺、けいれん、幻覚、激しい頭痛、精神状態の変化、人格の変化、物事への関心の低下などが起こります。 乳幼児では、体の硬直、機嫌が悪い、激しく泣く、食欲不振、嘔吐。 赤ちゃんでは、頭の柔らかい部分である泉門の腫れ、授乳低下などの症状があります。
脳炎の合併症と後遺症 脳炎の合併症や後遺症としては、聴力障害、視力障害、発語障害、記憶の低下、筋力低下、筋肉の協調性低下、感覚異常などがあります。 程度が軽くて、何の後遺症もない人もいれば、重症で脳の損傷が大きく、昏睡や死に至る人もいます。
脳炎の診断 問診と診察を基本にして、脳のCTあるいはMRIなどの画像検査、腰椎穿刺 (ようついせんし) をして髄液の検査などをします。 髄液の検査には髄液の培養、血球やたんぱく質量の検査、ウイルスの抗原抗体検査、髄液や血液中のウイルスのごくわずかなDNAを調べる検査 (PCR) などがあります。 血液検査、血液培養、尿培養、脳波なども行います。 他の検査としては、脳波、そして稀 (まれ) な脳の組織検査があります。
脳炎の治療 脳炎の治療は、その重症度、原因によって変わってきますが、原因の分からないことも、原因の同定に時間がかかることもあります。 従って、脳炎を疑うと、原因如何 (いかん) にかかわらず、アシクロビルなどの抗ウイルス薬を始めることが多いのです。 脳炎の治療薬としては、抗ウイルス薬、抗菌薬、抗けいれん薬、ステロイド (脳の腫れを改善する)、頭痛に対する鎮痛薬などがあります。 抗ウイルス薬としては、アシクロビル (商品名:Zovirax)、ガンシクロビル (Cytovene)、フォスカーネット (Foscavir) があります。蚊やダニが媒介するウイルスにはこれらの抗ウイルス薬は効果がありませんが、通常こうした抗ウイルス薬がまず投与されます。 軽い脳炎は、ベッド上安静、水分の摂取、抗炎症鎮痛薬などで済む場合がありますが、重症の場合は、呼吸管理、点滴、ステロイドの投与、抗けいれん薬の投与などが行われます。 後遺症のある場合は、その後遺症に応じて、理学療法、職業療法、言語療法、心理療法の適応になります。
脳炎の予防 脳炎の原因になるウイルスになるべく接触しないことが大事です。 普段から手洗いをしっかりする。 特にトイレの後や食事の前。 他の人と食器や食べ物・飲み物をシェアーしない。 脳炎にかかっている人との接触を避けます。 蚊やダニにかまれないようにするには、野外活動する際、夕暮れから夜明けまで蚊が活動する時間帯や、ダニにかまれやすい草原や低木地域に行くときは、長袖、長ズボンを着用します。 DEET (N,N-diethyl-3-methylbenzamide) など虫よけのスプレーを使用します。 2か月未満の赤ちゃんには虫よけスプレーは禁忌です。 それ以上の子供は10〜30%のDEETを使います。 殺虫剤としては、permethrin を含む殺虫剤を使用しますが、殺虫剤を直接皮膚に付けてはいけません。 家の周りに蚊を生息できないように水溜りをなくします。 死んでいたり死にかけている鳥や動物を見つけたときは保健所や健康局に連絡してください。 はしか (麻疹)、おたふく (流行性耳下腺炎)、ポリオ、狂犬病、水痘症 (みずぼうそう)、風疹などによる脳炎は予防接種で予防が可能です。 また、旅行する外国に予防接種を勧められていればそれを受けます。 ペットに狂犬病の予防接種をします。
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(2018年7月1日号掲載) |