金 一東
日本クリニック・サンディエゴ院長 |
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飲み込み障害=嚥下障害 (Difficulty Swallowing = Dysphagia) |
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水分や食べ物が飲み込みにくい状態を、嚥下 (えんげ) 障害または、嚥下困難と言います。 飲み込むのに、より時間を要したり、努力を要する状態です。まったく飲み込むことができなくなることもあります。 時々起こる飲み込み困難、例えば早く食べたり、あまり噛まないで飲み込もうとする時に生じるものは、あまり心配いりません。 継続して起こる飲み込み障害は、重篤な病気が隠れているかもしれないので、原因を追究することが必要です。 嚥下障害は高齢者に多いですが、どの年齢でも起こります。 原因は様々で、治療はその原因で異なってきます。
嚥下の過程 食べ物や飲み物を飲み込む嚥下は、健康な人であればごく自然に行われますが、実は複雑な過程を経て行われているのです。 この嚥下という一連の動作には3つの過程があります。 ● 口腔期 食べ物や飲み物が口の中に留まる過程で、その時期に食べ物が咀嚼 (そしゃく) されて小さく刻まれます。この時期は自分の意志でコントロールできます。 ● 咽頭期 咽頭期には、嚥下反射という一連の反射反応が起こります。口腔から食べ物が咽頭に移動し、咽頭下部の筋肉でできた弁が開き、食べ物が食道に移動します。それと同時に、他の弁が気管の入り口を閉じて、気管の中に食べ物が入るのを防ぎます。 ● 食道期 食道に入った食べ物が胃に移動する過程です。食べ物が食道に入ると、筋肉でできた食道は蠕動 (ぜんどう) 運動を起こして、食道の下部にある筋肉性の弁を開けて、食べ物を胃に運びます。
嚥下障害の症状 嚥下障害の症状としては、飲み込むのに時間がかかる、飲み込むのに努力を要するだけではなく、次のような症状があります。 飲み込む時に痛みが起こる、まったく飲み込めない、食べ物がのどや食道に詰まってしまう感覚、よだれが出る、声が枯れる、食べ物が口の中に戻ってくる、胸焼け、食べ物や胃酸がのどまで戻ってくる、飲み込むと咳や吐きそうになる、などです。 合併症としては、栄養失調、体重減少、脱水、誤嚥 (ごえん) 性肺炎、窒息などがあります。
嚥下障害の原因 嚥下は一連の筋肉の動きによって行われているので、そのどこかに障害があると嚥下障害につながります。 筋肉の病気、神経系の病気、あるいは物理的に飲み込みを障害する病気もあります。 原因が比較的簡単に発見されることもあれば、原因を特定することが困難なこともあります。 ここでは、嚥下障害の起こる部位に注目して、食道で主に起こるものと、口腔咽頭で主に起こるものに区別して原因を列挙していきます。
■ 食道性嚥下障害 食道性嚥下障害は、飲み込んだ時に食べ物がのどにつかえたり、胸につかえる感覚が生じます。この原因としては以下のものがあります。 ● アカラシア 食道下部の筋肉 (括約筋) が適切に緩まないので、食べ物が胃に入らなくなります。食べ物がのどまで戻ってくることがあります。 ● 食道けいれん 飲み込んだ後に食道が協調性のない収縮=蠕動 (ぜんどう) をし、食道に高圧がかかってしまいます。 ● 食道狭窄 食道の一部が狭窄をしていると、大きな食べ物が詰まってしまいます。腫瘍、胃食道逆流症などで生じた瘢痕 (はんこん) などが原因になります。 ● 食道内の異物 食べ物や他の異物がつかえて、さらに飲み込みを困難にします。 ● 胃食道逆流症 (GERD) 胃から逆流してきた胃酸で食道内部が傷つき、食道けいれんや食道の狭窄を起こします。 ● 好酸球性食道炎 食道に異常増加した好酸球によって生じた食道炎。食べ物アレルギーとの関係を示唆する人もいます。 ● 強皮症 瘢痕のような組織が生じて食道の組織の柔軟性がなくなり、硬化していきます。 ● 放射線治療 がんの治療などで放射線治療を受けると、食道内部に炎症を起こしたり、瘢痕を生じます。 ● 他の原因 甲状腺の腫大 (しゅだい)、胸部の大動脈瘤、胸部中央部の腫瘍などが原因になります。
■ 口腔咽頭嚥下障害 のどの筋肉が弱くなって食べ物を食道に移動することができなくなり、嚥下障害が起こります。窒息しそうになったり、吐き気がしたり、咳が出ます。 誤嚥性の肺炎を起こすことがあります。
嚥下障害の診断 まずは問診と診察ですが、いろいろな検査が必要になるかもしれません。 食道のバリウム検査で食道の形、バリウムで被った食べ物や錠剤を飲み込んで、のどや食道での動きを見て、食道の閉塞などを調べる方法もあります。 ダイナミック (動力学的) 嚥下検査 —— バリウムでコーティングを施したいろいろな堅さの食べ物を飲み込んで、どのように口から喉に移動するのかを評価します。 口と喉の筋肉の協調性を評価したり、食道ではなくて気道の方へ入っていくのかどうかも評価します。 内視鏡検査では、食道の中を覗くことによって、炎症、好酸球性食道炎、狭窄部、腫瘍などの有無を評価します。 喉頭ファイバー検査もあります。飲み込み時に内視鏡で評価することもあります。 食道内圧測定検査 (マノメトリー) では、細い管を食道内に入れて、飲み込みの時の食道の内圧を測定します。CT、MRIなどの画像診断では、腫瘍の有無などを評価します。
嚥下障害の治療 治療は原因によって異なります。 治療を口腔咽頭嚥下障害と食道性嚥下障害に分けると、 次のようになります。
■ 口腔咽頭嚥下障害 スピーチセラピストや嚥下専門のセラピストによって、いろいろな嚥下に関するリハビリテーションが行われます。訓練で嚥下に関する筋肉の協調を図り、嚥下反射を引き起こす神経の再刺激をしたりします。食べ物を口の中に入れてから、どのように飲み込むようにするかを訓練します。
■ 食道性嚥下障害
重症の嚥下障害の治療 食べたり飲んだりすることがかなり困難な場合は、特別な流動食を使ったり、管を鼻から胃まで入れて、そこから流動食を流す経鼻経管栄養が必要になるかもしれません。 長期に至る場合は、内視鏡的に胃壁に穴を開けて、胃壁からの経管栄養が行われることがあります。 さらに、外科的手術が適応になる例としては、咽頭の狭窄や閉塞、食道腫瘍、食道がん、アカラシア、咽頭食道憩室などがあります。 アカラシアの場合、括約筋の一部を切開します。
自分で行う治療 嚥下障害による症状や合併症を避けるために自分でできることがあります。 例えば —— 食事を取る時は、上半身を90度に保って座る。食後も15〜30分はその姿勢を保つ。食事に集中できるように、興味をそらすものを近くに置かない。口の中に食べ物がある時はしゃべらない。ゆっくり食べる。食べ物を小さめに刻み、よく噛む。一度に少量の食べ物を食べる —— などです。 他にも、食べ物や飲み物がのどにつかえたら、軽く咳払いをし、息をする前に再度飲み込む。十分な水分を取る。噛みにくい食べ物や、飲み込みにくい食べ物は避ける。食べ物をミキサーで裏ごしして、ピューレ状やペースト状にする。普通の飲み物で咳き込む時は、液体のとろみをつけるとろみ調整食品 (増粘剤) やゲル化剤を加える。あるいは、すでにとろみのついた飲み物、例えばネクタージュースやとろみのあるクリームスープを飲む —— などがあります。 |
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(2019年2月1日号掲載) |