Tuesday, 19 March 2024

肝機能検査の異常(前編)=肝機能検査=(Abnormal Liver Function Tests)(2019.4.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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肝機能検査の異常(前編)=肝機能検査=

(Abnormal Liver Function Tests)

       
       

人間ドックや健診を受けられて、肝機能検査の異常を指摘されたことがある人は少なくないと思いますが、この「肝機能検査の異常」が何かについて、今回と次回で解説します。

一般的に肝機能検査というのは、ALT (GPT)、AST (GOT)、ALP、γ — GTP (GGT)= ガンマ−GTPなどの血液検査のことですが、これ以外にもいくつもの血液検査が肝機能検査に含まれます。

ALT、AST、γ−GTPなどの検査は正確には肝臓の機能を調べる検査ではなく、肝細胞の破壊・損傷を示す検査で、肝臓で生成されるタンパク (アルブミンや凝固因子) などを調べる方が肝臓の機能を示すのですが、一般的には肝機能検査として行われています。

実際には、ALTやASTの値がかなり上昇しても、肝臓の機能は正常のことが多いのです。

肝機能検査の異常がある場合でも、そのほとんどは脂肪肝などによる軽度の異常が多いのですが、重大な病気が隠れているかもしれないので、詳しい検査が必要です。

 

肝機能検査異常の原因になる病気

肝機能検査の異常を起こす病気や状態は多くあります。

頻度の高い原因としては、市販の薬 (例えば、タイレノール=アセトアミノフェン) や処方薬による副作用、脂肪肝、アルコールの飲用によるものですが、他に心不全、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、肥満、アルコール性肝炎、自己免疫性肝炎、セリアック病、サイトメガロウイルス感染症、伝染性単核症、肝硬変、肝臓がん、多発性筋炎、敗血症、甲状腺の異常、中毒性肝炎、ウィルソン病 (体に銅が蓄積する) などがあります。

これらの病気については、次回詳しく説明をします。

 

肝機能検査

肝機能検査は血液検査で、肝臓の病気を診断したり、モニターをする検査です。

検査では、血液中の肝酵素やタンパクなどのレベルを調べます。肝臓がタンパクを生成したり、ビリルビンを代謝したり、血液の凝固因子を作ったりするのを調べる検査や、肝臓細胞の破壊を受けていたり、病気になっているのを調べます。

肝炎などの肝臓の感染のスクリーニング、肝炎などのモニター、肝臓の病気の重症度、薬の副作用のモニターもします。

肝機能検査の各検査の正常値は、検査室によっても、日本人とアメリカ人、男性と女性、大人と子供によっても違います。

解釈については注意が必要です。

 

 

=個別の検査=

正常値はアメリカでの一般的な正常値で、( )内は日本での一般的な正常値です。

 

●  ALT (GPT) 正常値:7 – 55 U/L (30 U/L 以下)

ALTはほとんど肝細胞内だけに存在する酵素で、タンパクの代謝に関与しています。

肝細胞に炎症による損傷があるとALTが血中に放たれて血中の値が上昇します。

従って、ALTの値が高い場合は、何らかの肝細胞の破壊や障害が存在していることになります。

 

●  AST (GOT) 正常値:8 – 48 U/L (30 U/L 以下)

ASTはアミノ酸のアラニンを代謝する酵素です。

肝臓以外にも、心臓、筋肉、腎臓などに存在し、肝臓や筋肉が損傷を受けると血中の値が上昇します。

肝臓の病気では、ALTとASTの両方が上昇します。

肝臓以外の病気でも値が上昇するので、例えば、クレアチニンキナーゼ (CK)という筋肉の酵素も一緒に上昇していると肝臓ではなくて筋肉の損傷だと分かります。

さらにトロポニンも上昇していると心臓の損傷 (心筋梗塞) ということになります。

 

●  γ−GTP (GGT) 正常値 : 9 – 48 U/L (50 U/L 以下)

γ−GTP (GGT)= ガンマ−GTPは肝細胞以外にも胆管の上皮細胞、尿細管、膵臓、腸に存在する酵素です。肝臓の病気以外にもいろいろな病気で上昇します。

肝臓や胆管の病気、慢性閉塞性肺疾患、腎不全、心筋梗塞後などで血中の値が上昇しますが、γ−GTPだけ上昇している場合は、アルコールの飲用や薬剤性などが考えられます。

アルコールとの関係が疑われる時は、1か月禁酒して再検査をします。

 

●  ALP 正常値:45-115 U/L (100 – 325 U/L)

主に胆管の内側に存在する酵素ですが、骨、胎盤、腎臓、腸などにも存在します。値がかなり上昇すると、胆汁のうっ滞を意味し、胆管がどこかで閉塞している可能性があります。

そしてγ−GTPも上昇していることが多いのです。

骨の病気でも高値を示しますがその場合はγ−GTPは上昇しません。

ALPだけ上昇している時は、肝臓よりも骨や腎臓の病気の可能性が高くなります。

病気でなくても、思春期での骨の成長期や妊娠後期にも値が上昇します。

 

●  LDH (LD) 正常値:122 -222 U/L (120 - 240 U/L)

LDH (LD) は肝臓、心臓、腎臓、赤血球などの様々な場所でつくられる酵素です。

血液中の高値は肝臓の病気が考えられますが、肝臓以外の病気でも上がります。

 

●  ビリルビン 正常値 : 0.1 – 1.2 mg/dL  (0.2 – 1.2 mg/dL)

ビリルビンは赤血球の血色素であるヘモグロビンが代謝されて生成されますが、血中の値が高いと、肝臓や胆管の病気や、ある種の貧血が考えられます。

古くなったヘモグロビンがビリルビンまで代謝されたビリルビンのことを非抱合型 (間接) ビリルビンと呼びます。

この間接ビリルビンは血液中のアルブミンというタンパク質と結合して、肝臓にまで運ばれます。

そこで、抱合型 (直接) ビリルビンに変わり、胆汁に放出され、胆道を通じて十二指腸に排出されます。

肝細胞の障害では、間接ビリルビンの値が高くなり、胆道系の異常で胆汁うっ滞が生じると直接ビリルビンの値が上昇します。

 

●  総タンパクとアルブミン 正常値:(総タンパク質:6.3 – 7.9 g/dL, アルブミン:3.5 – 5.0 g/dL (6.7 – 8.3 g/dL, 3.8 – 5.3 g/dL)

アルブミンは肝臓で生成されるタンパクの一つで、総タンパクの約3分の2を占めます。

こうしたタンパクは感染と闘ったり他の体の機能に必要で、アルブミンや総タンパクが正常より低いと肝硬変などの重症の肝臓の病気が疑われます。

アルブミンの低下は、肝臓病以外にも、ネフローゼ症候群、栄養の吸収障害、タンパク喪失性腸炎、栄養失調などでも見られます。

肝臓病のある場合は、血中アルブミンとプロトロンビン時間は肝臓の生成機能を判断するモニターになります。

アルブミンの半減時間は20日ですが、抗凝固因子の半減期は約1日です。

 

●  PT=プロトロンビン時間とINR=国際標準比正 常値:12−13秒(9.5 – 13.8 秒)INR 0.8 – 1.2

PTは血液の凝固時間を表す指標ですが、肝臓で作られる凝固因子が低下するとこの値が延長し、肝臓の障害を示します。

抗凝固薬のワーファリンやビタミンKの不足などでも延長します。

 

●  血小板 正常値:15 – 45 万/μL  (14 – 34 万 /μL)

血小板は骨髄でつくられる血液の成分で、出血した時に血を止める働きをします。

血小板の生成には肝臓や腎臓でつくられるホルモンが関与しています。そのため、肝硬変など肝臓の障害が進むと、血小板の数が低下します。

 

 

肝機能検査で異常のあった時

人間ドックや健診などのスクリーニングの肝機能検査で異常のあった場合は、さらに詳しい検査をして、原因となる肝臓の病気を同定することになります。

主に血液検査と超音波検査などの画像検査で行います。

前述したPT (プロトロンビン時間) とINR (国際比較) は通常人間ドックや健診では行われないので、肝臓の生成機能の異常が考えられる時は行います。

肝炎を起こすウイルスの抗体検査では、A、B、C型の各肝炎、サイトメガロウイルス、EBウイルス (伝染性単核症の原因ウイルス)、HIVなどの検査を行います。

自己免疫肝炎などを疑う時は、抗ミトコンドリア抗体、抗平滑筋抗体、抗核抗体などの自己抗体を調べます。ヘモクロマトーシスを疑う時は、フェリチン、トランスフェリン飽和率など。

他に肝臓がんを疑う時は、アルファフェトプロテイン (AFP)、それ以外に、免疫グロブリン、銅/セルロプラスミン、アルファ−1アンチトリプシンなどの検査を行うことがあります。

血液検査とともに重要なのが画像検査で、特に腹部の超音波検査は脂肪肝などの診断には欠かせない検査です。

他にCT、MRIなどを必要に応じて行います。

肝臓の組織の生検が必要な場合もあります。

 

 
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(2019年4月1日号掲載)