Thursday, 21 November 2024

肝機能検査の異常(後編)=肝機能検査=(Abnormal Liver Function Tests)(2019.5.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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肝機能検査の異常(後編)=肝機能検査=

(Abnormal Liver Function Tests)

       
       

肝機能検査が異常の時に考えられる病気

前編でも説明しましたが、肝機能検査が異常の時、頻度の高い原因としては、市販の薬 (例えば、タイレノール=アセトアミノフェン) や処方薬による副作用、脂肪肝、アルコールの飲用などがあります。

他の原因としては、心不全、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、肥満、アルコール性肝炎、自己免疫性肝炎、セリアック病、サイトメガロウイルス感染症、伝染性単核症、肝硬変、肝臓がん、虚血性肝障害、多発性筋炎、敗血症、甲状腺の異常、中毒性肝炎、ウィルソン病 (体に銅が蓄積する) などがあります。

 

肝機能検査で異常のあった時

これも前編で説明をしましたが、さらに詳しい検査をして、原因となる肝臓の病気を調べるにことになります。

主に血液検査と超音波検査などの画像検査で行います。

PT (プロトロンビン時間) とINR (国際比較)、A、B、C型の各肝炎の抗原や抗体、サイトメガロウイルスやEBウイルス (伝染性単核症の原因ウイルス) の抗体、HIVなどの検査を行います。

自己免疫肝炎などを疑う時は、抗ミトコンドリア抗体、抗平滑筋抗体、抗核抗体などの自己抗体を調べます。

ヘモクロマトーシスを疑う時は、血清鉄、フェリチン、トランスフェリン飽和率など。

他に肝臓がんを疑う時は、アルファフェトプロテイン (AFP)、それ以外に、免疫グロブリン、銅/セルロプラスミン、アルファ−1アンチトリプシンなどの検査を行うことがあります。

血液検査とともに重要なのが画像検査で、特に、腹部の超音波検査は脂肪肝などの診断には欠かせない検査です。

他にCT、MRIなどを必要に応じて行います。

肝臓の組織の生検が必要な場合もあります。

 

 

肝臓の働き

肝臓の病気を考える前に、肝臓の働きについて考えてみましょう。

肝臓は右上腹部に存在し、肋骨に囲まれています。

人体の中で最も大きな臓器で、大人では1200〜1500グラムくらいの重さです。

体の中の「化学工場」で、アルブミンや、その他タンパク質の生成、栄養物や薬の代謝、ヘモグロビンや他の細胞などの処理、ビタミン、脂質、コレステロール、胆汁などの貯蔵、グルコースの貯蔵と生成、血液の解毒などを行っています。

血液の凝固に必要な凝固因子の生成も行います。

消化管で消化吸収された栄養素が運ばれ、何百種類もの酵素が働いて、栄養素を代謝しています。

代謝された栄養素は血液中に放出されたり、肝臓に蓄えられます。ブドウ糖の一部はグリコーゲンという形で肝臓に蓄えられます。

血液の解毒作用は、食物添加物、老廃物、薬物、細菌なども肝臓に流れこみ、肝臓で分解して解毒します。

脂肪の消化吸収を助ける胆汁を生成。胆管に分泌され、胆のうに溜まって濃縮され。十二指腸に放出されて膵液とともに脂肪の分解を助けます。

 

トランスアミナーゼの上昇

ALT (GPT) とAST (GOT) はトランスアミナーゼ、すなわちアミノ基転移酵素と呼ばれ、アミノ酸の産出に必要な酵素ですが、これらの上昇によっていろいろな肝臓の病気が考えられます。

特にALTはほとんど肝臓にしか存在しない酵素なので、ALTの上昇イコール肝臓の病気とも言えます。

ALTの上昇の度合いとASTとの関係で、ある程度肝臓の病気の推定ができます。

 

●  ALTとASTが軽度上昇している場合

ALTとASTが正常値の数倍程度に上昇している時は、薬の副作用、脂肪肝、他の慢性肝臓疾患などが考えられます。

慢性の肝臓の病気では、ALTが正常値の数倍程度に上昇して、ALTがASTよりも高いのが普通ですが、これがASTの方がALTより高くなると、肝硬変や肝臓がんに進行している可能性があります。

また、AST:ALT比が2倍以上の場合はアルコール性肝疾患の可能性があります。

 

●  ALTとASTが非常に上昇している場合

ALTが1000(1000IU/L)以上上昇し、ASTより高い場合は、急性の肝臓の病気、例えば急性ウイルス性肝炎、虚血性肝炎、薬剤性肝炎などが考えられます。

ただし、EBウイルスやサイトメガロウイルスによる感染では、ALTが1000まで上昇することはまずありません。

急性の肝臓病の場合はALTがASTの数倍以上に上昇します。

特に、虚血性肝障害の場合はALTがASTの数十倍にも上昇することがあります。

 

●  ALPとガンマーGTPの上昇がASTとALTの上昇よりも際立っている場合

胆管の閉塞や胆汁のうっ滞が考えられます。

この場合、ビリルビンも上昇しています。

肝内の閉塞やうっ滞では、原発性胆汁性肝硬変や薬物の影響、肝外の閉塞やうっ滞では、総胆管での胆石のつまり、膵臓膵頭部の腫瘍、薬剤性、心不全、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、腫瘍などが考えられます。

また、炎症性腸炎 (特に潰瘍性大腸炎) のある人でALPが上昇している人は原発性硬化性胆管炎を疑います。

中年女性でALPが上昇し、かゆみや自己免疫疾患のある場合は、原発性胆汁性肝硬変を疑います。

ALPだけ高い場合の他の原因としては、肝臓がんの転移、リンパ腫、サルコイドーシスなど。

高齢者では、骨折、骨のパジェット病、骨軟化症、骨への転移などがあります。

 

 

肝機能検査の異常を起こす病気

 

●  脂肪肝

アルコール性と非アルコール性の脂肪肝がありますが、ほとんどが非アルコール性脂肪肝で、肥満や高脂血症 (特に高中性脂肪血症) などが原因になります。

 

●  アルコール性肝障害

アルコール飲用に伴い軽度ガンマーGTPが上昇しているだけのこともありますが、アルコール摂取量が多くなるとアルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変、肝臓がんなどの原因になります。

 

●  ウイルス性肝炎

A、B、C、D、E型肝炎、EBウイルスやサイトメガロウイルスなどによる肝炎がありますが、このうち慢性化して肝硬変や肝臓がんのリスクになるのはB型とC型肝炎です。

 

●  薬剤性肝障害

アセトアミノフェンの大量摂取で重症の肝障害を起こすことがありますが、軽度の肝障害はいろいろな薬剤で生じます。

アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、抗けいれん薬 (フェニトイン、デパケン、フェノバービタル)、テトラサイクリン、ナイトロフルカン、フルコナゾール、高脂血症の薬 (アトルバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチンなど)、アミオダロンなどです。

 

●  肝硬変

いろいろな肝臓病、アルコール性肝障害、B型肝炎、C型肝炎、非アルコール性脂肪肝などが長く続くと、正常の肝細胞が変化し (線維化)、正常に機能しなくなり、浮腫、腹水の貯留、脳症など、様々な症状を現すようになります。

 

●  肝臓がん

B型肝炎とC型肝炎の持続感染によるものが大半ですが、アルコール飲用、かびに含まれているアフラトキシン、肝硬変、非アルコール性脂肪肝なども原因になります。

 

●  ヘモクロマト−シス

遺伝による病気で、食事からの異常な鉄の吸収によって、鉄分が肝臓などの臓器に沈着することにより生じます。

治療しないでいると、肝硬変や肝不全になることがあります。

 

●  ウィルソン病

遺伝的な病気で、異常な銅の沈着が肝臓やいろいろな臓器に起こります。

肝臓に沈着すると、慢性的な炎症が生じます。

 

●  アルファ1アンチトリプシン欠乏

遺伝的な病気で、アルファ1アンチトリプシンという糖タンパク質の欠乏で慢性の肺疾患や慢性の肝臓疾患を起こします。

 

●  自己免疫性肝炎

自分の体を守るはずの抗体が自分の肝臓を攻撃してしまう病気です。

 

●  セリアック病

腸の病気で、グルテンによって腸の膨張や下痢などの症状が起こります。

軽度ALTなどが上昇します。

 

●  クローン病と潰瘍性大腸炎

腸の慢性炎症のある病気で、炎症性腸疾患と呼ばれています。

肝臓や胆管の炎症も起こることがあります。

 

 
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(2019年5月1日号掲載)