Thursday, 26 December 2024

先天性風疹症候群 (Congenital Rubella Syndrome = CRS)(2020.11.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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先天性風疹症候群

(Congenital Rubella Syndrome = CRS)

       
       
妊娠初期の妊婦が風疹ウイルスに感染すると、風疹ウイルスは母体から胎盤を通じて移行し、胎児も感染、様々な先天的障害を胎児に引き起こします。

特に、高度の難聴、先天性心疾患、白内障が代表的な障害で、こうした風疹感染症による障害を持って生まれてきた赤ちゃんの病気は先天性風疹症候群と呼ばれています。



先天性風疹症候群の歴史


新生児の先天性白内障と母体の風疹との関係を最初に報告したのはオーストラリア人の眼科医ノーマン・グレッグで、1941年のことでした。

風疹ワクチンのない時代は、6〜9年毎に大規模な風疹の流行が発生し、多くの妊婦が風疹にかかり、先天性風疹症候群の赤ちゃんも多く生まれました。

1962年〜1965年の風疹パンデミック (世界的大流行) では、アメリカで約1250万人の人が風疹にかかり、2万人の赤ちゃんが先天性風疹症候群をもって生まれました。

また、死産した赤ちゃんの数も1〜3万人に上りました。

  
1969年に風疹ワクチンが始まってから、アメリカでの風疹の発病率は劇的に減少しました。

2005年から2017年までの12年間で報告された先天性風疹症候群の赤ちゃんは15人だけで、そのほとんどは、アメリカ以外で妊婦が風疹に感染していました。


アメリカでは2004年に風疹の根絶宣言がされ、以降、先天性風疹症候群だけでなく、風疹に感染する人 (1年で10人程度) がほとんどいなくなりましたが、目を世界に向けると、未だに毎年10万人以上の赤ちゃんが先天性風疹症候群と診断されています。




先天性風疹症候群の赤ちゃんの感染性


先天性風疹症候群をもって生まれてきた赤ちゃんは、出生後少なくとも3か月はウイルスを排出するので感染性があります。

3か月を過ぎてからもウイルスを排出することが多く、生後最低1年間は感染性があると考えられています。

ただし、PCR法で1か月間隔をあけて2回検査をして、2回とも陰性になれば感染性はないと考えます。

ただ、こうした検査は生後3か月を過ぎて始めることになっています。




先天性風疹症候群の症状と徴候


妊娠初期の妊婦が風疹に感染すると、その胎児が先天性風疹症候群をもって生まれてくる確率が高いのですが、妊娠初期では、胎児の主要な器官がまだ形成過程にあるので与える影響も大きいのです。

妊娠中期、後期になっていくと胎児に及ぼす影響はほとんどなくなっていきます。


妊娠初期の妊婦が風疹に感染すると、まず流産を起こす可能性があります。

生まれてくる赤ちゃんが持つ障害としては、高度の難聴、白内障、先天性心疾患、発育遅延、網膜症、知能障害、肝臓や脾臓の肥大、黄疸、低体重出生、誕生時の皮疹、緑内障、小眼球、脳の障害、甲状腺や糖尿病などの内分泌障害、肺の炎症、骨のX線透過性亢進、学習障害 (児童期に明らかに) など。

ただ、出生時に明らかな先天的異常の徴候がないことも多く、その場合、生後数か月から数年して発症することがあるのです。




先天性風疹症候群の診断


先天性風疹症候群の診断のためには、まず妊婦の風疹の診断が前提です。

妊婦の症状としては、微熱、倦怠感、目の発赤 (ほっせき)、首のリンパ節の腫れ、発疹、関節症状などですが、症状だけで風疹と診断するのは困難です。

血液での風疹抗体検査やウイルス検査が必要になってきます。

血液中のIgM抗体が陽性、IgG抗体が感染初期と回復期を比べると4倍以上上昇、PCR法 (風疹の場合は、逆転写PCR法=RT-PCR) やウイルス培養などで陽性になると風疹と診断できます。


新生児は、白内障や先天性心疾患などがあると先天性風疹症候群を疑いますが、妊婦がすでに風疹に感染しているのが分かっている場合が多いので、出生してから血液での風疹抗体検査、咽頭ぬぐい液、尿、髄液、結膜などからのサンプルでウイルス分離検査やPCR検査などを行います。

また、生後6〜12 か月で風疹抗体のIgG抗体が高い場合は、先天性風疹症候群の可能性があります。



先天性風疹症候群の治療


先天性風疹症候群に特有の治療はありません。

各々の障害に対して治療していくだけです。

例えば白内障の治療など。

生まれてくる赤ちゃんがいろいろな障害を持っている可能性があるので、風疹に感染した妊婦へのカウンセリングが大切です。

妊娠初期の妊婦が風疹の人と接触のあった場合は、免疫グロブリン投与の適応になることがありますが、この治療で風疹の感染を予防できるわけではありません。




先天性風疹症候群の予防


妊娠可能年齢の女性が風疹ワクチンを受けるのが最も効果のある予防法です。

アメリカでは生後12〜15か月と4歳過ぎにMMRワクチン (麻疹、おたふくかぜ、風疹) を2回受けるので、風疹に感染する女性はほとんどいません。

大人で今までMMRもMR (麻疹、風疹) も受けたことがない人は、MMRを1回だけ受けます。

MMRは弱毒化した生ワクチンなので妊娠中にMMRを受けることはできません。

MMRを接種した場合、28日間は妊娠を避けます。


過去に風疹に感染したかどうか定かでない場合は、血液で風疹抗体検査 (IgG) をすると分かります。
 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。
 
(2020年11月1日号掲載)