Tuesday, 10 December 2024

米国の退職給付制度の概要 (1) (2013.11.1)

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nagano_face.jpg   永野 文久

米国公認会計士

昭和17 年生まれ。  昭和41 年東京大学卒。同年三和銀行入社。
昭和58 年米国公認会計士。

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米国の退職給付制度の概要 (1)

 

アメリカにおける退職給付制度への関心が年々高まっています。

日本と同様、政府の財政再建および経済の見通しが利かず、退職後のライフを心配する米国民が増えているからです。

アメリカの退職給付制度は、公的年金である Social Security、私的年金である個人年金 (IRA) 及び企業年金(Qualified Plan)に大きく分けられます。  

Social Securityには原則として全員が加入することになっていますが、給付水準が必ずしも十分とはいえず、さらに年金財政への不安を抱く人も多いのが現状です。

このため、私的年金プランも様々なものが税制上の優遇措置を伴って設定されています。

当コラムでは2回にわたり、アメリカの年金制度と、その税制上の扱いについて概説したいと思います。

 

Social Security  

日本の国民年金制度に近い公的年金制度です。

主な内容として、OASDI (Old-Age, Survivors, and Disability Insurance) と呼ばれる、退職、遺族及び傷害保険と高齢者医療保険 (Medicare) があります (OASDI部分のみを Social Security と呼ぶ場合も多い)。

保険の負担は、被用者の場合は労使折半であり OASDI 部分と Medicare 部分が分離して算出され、被用者負担分は給与から源泉徴収されます。  

原則、米国税法上の居住者の所得に対して課税されますが、日本企業の駐在員等は日米社会保障協定により免除される場合があります。

2013年の OASDI 部分の被用者の料率は原則所得の6.2%です(但し、一定の上限あり)。

Medicare 部分の料率は上限なしで原則所得の1.45%ですが、高額所得者に対してはオバマケアにより2013年から0.9%が上乗せされています。

なお、この OASDI と Medicare の負担については、雇用者側は事業所得の計算上、費用とすることができますが、被用者側は日本の社会保険料と異なり、連邦所得税の計算上控除できません。  

退職保険は、被保険者が原則66歳に達した場合に給付を受けることができます。

OASDI の受給資格を得るためには原則10年の加入期間が必要です。

遺族保険は、被保険者が死亡した場合、60歳以上の配偶者や18歳以下の独身の子どもがいる時に支給されます。

傷害保険は、被保険者が病気や傷害で通常の生活や就労ができない場合、年齢に関係なく支給されます。  

メディケアについては、66歳に達して OASDI の給付を受けている場合は自動的に受給できます。

退職給付についても、雇用者負担分が存在するためか完全に無税でなく、調整後総所得に非課税利子所得及び退職給付の1/2を加算した金額が$32,000以上の場合は、退職給付金の最大50%、$44,000以上の場合は最大で85%が連邦所得税の課税所得に算入されます (夫婦合算課税の場合)。

なお、州のレベルでは、多くの州が退職給付を課税対象にしていません。  

退職保険の給付水準は、過去の記録から年間の給与額が高い順に35年間分を抽出し、物価上昇率を加味した当該35年間分の平均月額給与を基準にして決定されます。

この方式によると66歳給付開始の場合、2013年度における最高額は$2,533 /月、62歳開始選択の場合は$1,923 /月、70歳選択の場合は$3,350 /月となります。

但し、退職者が給付を受けている実際の平均給付金額は$1,230 /月(2012年)となっており、給付開始年齢も考慮すると必ずしも十分とは言えない状況にあります。

 

IRA(個人退職基金制度)  

公的年金を補完する私的退職プランは、企業年金で利用される Qualified Plan (適格退職給付制度) と個人退職プランであるIRA (Individual Retirement Arrangements、個人退職基金制度) に大きく分けることができます。  

そのうち IRA は、もともと企業年金を利用できない自営業者や中小企業社員のための個人退職プランで、金融機関の窓口やウェブサイトで開設できます。

IRAの代表的なものには Traditional IRA、Roth IRA があります。

① Traditional IRA

個人納税者は、自己の開設した Traditional IRA への一定の拠出金額を所得から控除することが認められています。

拠出が認められる上限は原則$5,500、50歳以上$6,500(2013年)となっています。

但し、Qualified Plan に加入している場合は、所得に応じて段階的に控除可能額が減少します。

2013年は夫婦合算の場合、加入している配偶者側の控除額減額は$95,000から始まり、$115,000で所得控除の恩恵がなくなります。

しかし、所得控除の可否に関係なく、拠出自体は最高限度額まで可能です。

Traditional IRAに拠出した元本とその運用から得られる利益の両方を非課税で運用できますが、IRAから資金を将来引き出す場合は、その引き出された金額は課税所得を構成します。

さらに、59.5歳になる前に資金を引き出す場合は、通常の課税に加えて10%の罰金が科せられるので注意が必要です。

Traditional IRAの最大のメリットは、税金の課税タイミングが将来に繰り延べになることにあり、所得が拠出時よりも引き出し時に少ない場合には低い税率区分が適用になるというメリットもあります。

 

 

② Roth IRA Roth

IRA は Traditional IRA とは異なり、拠出時には所得から拠出額を控除できませんが、引き出し時に拠出した資金とその運用益が非課税となります。

59.5歳より以前に運用益部分を引き出す場合は、当該運用益部分は原則課税され、さらにペナルティが課されます。

但し、引き出しは元本から行われると見なされるため、拠出時に課税済みとなっている元本に関する引き出し開始の年齢制限は実質上ありません。

上述したように Traditional IRA は所得により拠出金額の上限は変化しませんが (所得控除可能額は変化する)、Roth IRA は所得や個人確定申告のステータス (単身、夫婦合算等) により拠出できる金額が制限されます。

2013年は夫婦合算で申告する場合、所得が$178,000未満までなら$5,500を拠出できますが、$178,000から$188,000未満まで段階的に拠出金額が減額され、$188,000以上になると拠出可能金額がなくなります。

(次号に続く)


※注意:このコラムは米国での税務に関する一般論的概説ですので、実際の案件については個別に専門家の意見を求められるようにお願いします。
 
(2013年11月1日号掲載)

 

 

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