Monday, 30 December 2024

IFRSの最新動向を見る (2012.11.1)

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nagano_face.jpg 永野 文久

米国公認会計士

昭和17 年生まれ。  昭和41 年東京大学卒。同年三和銀行入社。
昭和58 年米国公認会計士。

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IFRSの最新動向を見る

日本は震災以後、あれだけ世間を騒がした国際会計基準をテーマとした記事は、すっかり下火になってしまったようです。

一方、米国では、US GAAP (米国会計基準) から IFRS (国際会計基準) への強制適用 (Adoption) というトピックスから、US GAAP自体を IFRS とともに制度的に収斂させる (Convergence) というトピックスへ会計業界の関心は移りつつあります。

しかし、IFRSのアドプションの流れは完全に止まった訳ではありません。

今回は、最近の米国 SEC の公表した IFRS の適用に関する最終報告書を通して、IFRSに関する米国のスタンスについて考察します。

 

 

米国SECのIFRSアドプションに関する最終報告書

2012年7月13日に米国証券取引委員会 (SEC) の主任会計士室 (Office of the Chief Accountant) は「米国上場企業の財務報告制度への国際財務報告書基準 (IFRS)組み入れを考察するための作業計画の最終報告書」  (以下 “Final Staff Report”) を公表しました。

2008年11月14日の Roadmap の公表で IFRS の adoption へ舵を切ったかに見えたアメリカでした。

その後、SECは2010年2月24日の声明で、グローバルな会計基準という目標を支持するとしつつも、IFRS強制適用の2015年以降への延期を発表していました。

その際、同時に発表されたのが、「米国上場企業の財務報告制度への国際財務報告書基準 (IFRS) 組み入れを考察するための作業計画」(以下 “Work Plan”) です。今回発表されたのは、その最終報告書です。

 

 

IFRS適用への慎重姿勢

今回の Final Staff Report では、米国の IFRS への移行に関してはまだ解決しなければならない問題が存在し、それらの問題を解決するのに時間を要し、米国の市場関係者の利害を総合的に検討した場合、IFRSへの移行の決断は時期尚早というスタンスが基調になっています。

そのため、具体的な移行時期や移行方法についての言及もありません。

この Final Staff Report が問題とするのは以下のような事項です。

 

A. US GAAPとIFRSの会計上の概念の不統一

現時点で、US GAAP と IFRS の間ですでにコンバージェンスされている会計基準もありますが、まだその基本概念に根本的な相違のある基準が多々残っており、それらには以下のようなものがあります。

  • Impairment- 減損の概念
  • Certain Nonfinancial Liabilities-偶発事項の概念
  • Measurement of Certain Asset Class-固定無形資産の評価額の概念
  • Inventory -在庫評価の概念
  • Research and Development-研究開発費の費用化と資産化の概念
  • Income Taxes-不確定事項の概念
  • Property, Plant and Equipment-減価償却の概念

レポートによれば、これらの相違点を解決していくためには、最低でも5年ないしは7年は必要でないかと示唆しています。

 

 

B. 産業別ガイドラインの欠如

レポートはさらに US GAAP はそれぞれの産業に対して産業別の基準や明確なガイドラインが存在しますが、国際会計基準にはそのような産業別ガイドラインがまだ不十分であるとしています。

 

C. Principles-based vs. Rules-based

IFRS は US GAAP に比べて、基準そのものが、いわゆる Principles-based となっていますが、US GAAPはそれぞれの会計基準のガイドラインが決められているため、決算書を比較して意思決定をすることが IFRS に比べて容易です。

レポートは、IFRSは Principles-based のため、フレキシブルではあるものの、各基準の拘束力が弱く、それが市場関係者の利害と必ずしも合致しないのではないかとも指摘しています。

さらに、双方のベースを取り、“Objectives-based” の基準へ移行していくことも FASB のトレンドであることにも触れられています。

“Objectives- based” とは、会計基準の設定及び運用にあたってその目的との整合性を重視するアプローチと説明されることが多いですが、レポートでは2009年に公表されたSFAS 167“Consolidation of Variable Interest Entities”が “Objectives-based” の基準の一例であり、問題なく米国市場へ受け入れられたとしています。

 

D. IFRSの理解の普及

IFRSへの移行に関して企業側はもちろんのこと、投資家、監査法人、金融機関、さらには政府機関などへの知識の普及も重要な要因であると指摘しています。

現状では、まだその知識レベルが限られており、IFRSへの “ビッグバン” 的な移行は妥当ではないとし、より緩やかな移行が IFRS への導入には重要であるとも指摘しています。

 

 

IFRSのさらなる適用延期か?

今回のレポートでは IFRS への移行は予想以上にコストと時間がかかるとも指摘しています。

ちょうど10年前に実施された2002年のSarbanes- Oxley Act 、いわゆる SOX法の場合、約1.4兆ドルものコストが米国企業にのしかかったという試算もあります。

2008年のリーマン・ショック以降、景気が思わしくない米国経済にとって、IFRSへの早期移行は荷が重すぎるという配慮もあるのかもしれません。

日本では2011年3月の震災を受け、IFRS の強制適用を2015年頃から2017年以降に延期されることになりましたが、今回のレポートを受け、更なる適用延期の議論が起こる可能性もあると思われます。


※注意:このコラムは米国での税務に関する一般論的概説ですので、実際の案件については個別に専門家の意見を求められるようにお願いします。
(2012年11月1日号掲載)

 

 

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