Friday, 04 October 2024

頭は良いはずなのに(2018.1.16)

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    美甘 章子

臨床心理医。医療や教育現場て幅広く臨床経験を積み、みなと学園コンサルタントも務めた。

エグゼクティブ・コーチング、スポーツ心理、精神科薬相談、心理療法、精神鑑定、教育心理アセスメント、発達障害相談など日・欧・北中南米などグローバルに従事。

「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」著者。

平和教育団体San Diego-WISH代表。


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頭は良いはずなのに

       
       

知能と成功の関係

 

「この子は頭は良いはずなのに、努力が足りないから成績が上がらない。」「この人は学歴が高いのに、部下のマネージメントがうまく出来てない。」などと言われるのをよく耳にします。

もちろん、知能が全般的に高ければ学習や仕事で情報を処理するのが一般的に得意だろうと予想はされます。

ただし、この仮定には2つの落とし穴があります。

一つは、知能(情報処理能力)には色々な分野があり、全ての分野で同じ能力を持っている人間は殆どいません。

数字や人名の記憶力が高い人もいれば、文章の理解力が高い人もいれば、 文章で説明された情報はそうでもないが図式や基本概念の理解や処理が得意な人など、多様性があることです。

もう一つは、多少の不得意分野はあったとしても、知能が全般的に高かった場合、標準化されたテスト(SATやGREなど)の高得点との相関関係はあるが、高いGPA(アメリカの学校の成績の平均点)や学歴や有能なリーダーシップや幸福を保証する要因にはならないとリサーチが示していると言うことです。

 

 

情緒能力と成功の関係

 

では、学業や人生において成功・幸福につながる要素は何なのでしょうか。

その様な要素は一つではありませんが、大きく注目されるのは情緒能力です。

IQ(知能指数)に対してEQ(情緒指数)と一般的には呼ばれていますが、「自己や他者の感情を認知・理解し、気分の変化などをうまくマネージし(ストレスに対処するなど)、他者と効果的にコミュニケーションができて、環境に適応しながら、ヘルシーな人間関係を築ける力」のことです。

IQが高くても、弱いものイジメをしたり、横暴な態度だったり、全て人のせいにしたり、誠実さが足りないために信頼されなかったり、自己像が否定的だったり、自己中心的な子どもや大人は、EQが高いとは言えず、学業や仕事の成就やリーダーシップや家族・親戚・友人関係などで苦労をすることも多く、心身の健康や幸福をなかなか得られない場合が多々あります。

 

 

情緒能力を伸ばすには

 

子どもの情緒能力は、持って生まれた気質もありますが、親自身の情緒能力と「成長マインドセット」に重点をおいた育て方、夫婦や兄弟の家族力動関係、教育環境などが大きく影響します。

大人の場合は、自己理解、感情統制、適応性、自分の人生に責任を持つ物事の捉え方(人のせいにばかりしない、不遇な状況でも自分にできることを見極め選択し実行するなど)、建設的な思考や行動のパターンと人間関係などを構築力を磨くために、自己洞察、ソウルサーチ、セラピー、瞑想、他者からのフィードバックを前向きに解釈し効用性があれば取り入れるなど、様々な方法があります。

 

 

個体内差と個人差

 

上述のように、知能に色々な分野があり多少なりとも個体内差があるのが普通であるように、情緒能力にも色々な分野があり、人の話を聞いて理解するのは得意だが自己表現が不得意など、個人の中でも得意不得意はあるのです。

また、 一つの物差しで「頭が良い、良くない」「性格が良い、良くない」という風な一元的理解で決めつけるのではなく、自身の得意不得意を理解した上で、得意なことをなるべく利用して不得意な分野のスキルを向上させることや、他者(子どもや配偶者やチームメンバーなど)の得意なところをハイライトして不得意なところを補ったり一緒に伸ばす協力をすることなどが大切です。

また、複数の人間が集まった家族や組織では「得意な人が得意なことをなるべくできるようにし、誰かに周りが頼り切るとか、誰かの鶴の一声で周りはなにも言えなくなるとかではなく、それぞれが貢献できることを称え伸ばし、何かが不得意な人も気持ちよく向上に励めるような、ポジティブな人間関係を築けるリーダーシップ」が、家族の幸せや組織の生産性にとても重要です。

 

 

教育環境の課題点

 

学校教育の現在の主流は、日米共に、知識や論理思考能力に焦点が当てられ、史実や産業や科学事象について記憶したり、高度な計算能力などを身につけるためのカリキュラムで、それらの知識量や処理力(計算など)を測るアセスメント方式です。

しかし、情報システムの発展とグローバル化による第4次産業革命により今後一層必要とされる力、クリエイティビティー、イノベーション、リーダーシップ、課題点を見出し多様な対処法を検証するなどの力は、必ずしも伸ばせる最適な環境とは言えません。

アメリカでは複数の財団の投資により、そのような力を伸ばすための新しいカリキュラムとプロジェクト・ラーニングなどの方法による学校(XQ スーパースクールなど)が注目されています。

日本でも、現代のニーズに合い、多様な子どもたちが意欲をもって学べるような教育環境が整うことが望まれます。

 
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「心の健康ノート」シリーズでは、主な心の病気やストレスの表れ方、心理療法、精神科薬、人との接し方、家族関係、職場でのメンタルヘルス等について、心と体の健康のために、ぜひ皆さんに正しく理解して頂きたいことを紹介していきたいと思います。
 
 
(2018年1月16日号掲載)