美甘 章子 臨床心理医。医療や教育現場て幅広く臨床経験を積み、みなと学園コンサルタントも務めた。 エグゼクティブ・コーチング、スポーツ心理、精神科薬相談、心理療法、精神鑑定、教育心理アセスメント、発達障害相談など日・欧・北中南米などグローバルに従事。 「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」著者。 平和教育団体San Diego-WISH代表。 |
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ポシビリティースクール (2) EQ(情緒指数)を高める |
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前回は、新しい時代に必要とされる教育カリキュラムの提言として私たちが取り組んでいるポシビリティースクールの教育の柱の一つ「成長マインドセット」について述べました。 今回は、もう一つの柱である「EQ(情緒指数)を高める」ことについて述べます。
EQとは何か EQとは知能指数であるIQに対して使われる言葉で、Emotional Quotient、つまり知的能力ではなく情緒的能力の度合いのことです。 IQは学校のGPA(各科目の成績の平均点)やアメリカの大学入学のための共通標準試験であるSATなどの成績に相関しますが、ビジネスや人生における成功やリーダーシップ、幸福度や人間関係の充実には必ずしも相関しません。
EQと幸福度 幸福度、リーダーシップ、ビジネスや人生における成功度、人間関係の充実に関係するのはEQです。 つまり、情緒的能力が高ければ、効果的なリーダーシップをとったり、より良い人間関係を築いて保てたりでき、ビジネスや人生でも成功する可能性が高く、幸福度も高くなるであろうということです。
EQの内容 では、具体的にどのような能力がEQなのでしょうか? 色々な心理学者などがEQをいくつかの分野に分けて説明していますが、私は、実際の生活で特に必要なEQは以下の6つの分野だと考えています。
自己像と感情統制 日本人は「自分の目標」や「組織の和を大切にする」などについては学校でも家庭でも色々な教訓を聞かされていることが多いですが、自己の成長の過程で「自分は何者か」「自分はどこから来てどのような存在意義を持っているか」「自分が主張したいことは何か」「自分は本当はどのような気持ちなのか」「それを相手に伝えるにはどういう方法が最善か」ということはあまり教わりません。 本当の意味で他者に親切にできるためには、自分を大事にして自分のことをよく理解できていないといけないのです。 さもなければ、自己満足で親切の押し売りになったり、余計なお世話だったり、または、その他者の成長の機会を奪ってしまうことになったりします。 自己像(センス・オブ・セルフ)に関連する事柄として、セルフ・エスティームやセルフ・エフィカシー(自己効能感)などがあります。 人間は誰もがかけがえのない存在なのですが、良かれと思って教訓ばかりを言ってしまう親や、教育のために必要と思って競争ばかりさせている教育者や社会から「もっと頑張りなさい」「努力をすればできるはずだ」「なんでこれができないのか」などというメッセージを頻繁に受けながら育っている人が多くいます。 そのため、自分に自信がなかったり、自分の意見を持てなかったり、または他人に意地悪したり支配しようとすることによってしか自分はOKと感じられない人もいます。 また、アルコールやドラッグ、過食、過剰なゲームや仕事のしすぎなど、何らかの不健康な行動によって気を紛らわしている人も少なくはありません。 ポジティブな自己像がちゃんと持てていないと、自分は本当はどんな気持ちなのかもわからないことが多くあります。 本当は憤っているのに、無意識にそれを「悲しい」「自分はダメだ」などと転換してしまって、抑うつ気分や不安になる人もいます。 精神衛生の基本の一つは、自分の感情をありのままに認識できて、それに健康的に対処する方法を持てることです。 ですから、この二つの分野でEQの高い人は、自分の立ち位置がしっくり感じられるので、他者を蔑んだり、支配される必要もなく、他者を大事にできます。 また、嫌なことがあったり、不安になったりしても、その気持ちをどのように表現したり対処したりすればより建設的かもわかって実行できるので、嫌な気持ちを溜め込んで体を壊したり、他者に当たったりしなくても済むのです。 新しい可能性を見出す力は、このように情緒も身体的な健康も充実していてこそ出てくる創造力ですから、私は新しい教育カリキュラムの中でEQを伸ばすことは必須であると考えています。 その他のEQの分野については、次回もう少し具体的に説明します。 |
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「心の健康ノート」シリーズでは、主な心の病気やストレスの表れ方、心理療法、精神科薬、人との接し方、家族関係、職場でのメンタルヘルス等について、心と体の健康のために、ぜひ皆さんに正しく理解して頂きたいことを紹介していきたいと思います。 | |||
(2020年1月16日号掲載) |