感冒の季節(2013.12.1)
01 October 2013
Last Updated: 04 July 2020
曽 碧光
米国中医薬研究所所長
1932年台湾に生まれる。 東京大学農芸化学修士、米国カンサス大学微生物学修士、東京大学薬学博士、 元米国コネチカット大学病理学助教授、 第1 回世界中西医結合大会審査委員、 セント・エリザベス病院 (ボストン) 筋ジストロフィー主任研究員、ドライ・アイ眼科研究所生化学顧問、元米国漢方研究所所長、現米国中医薬研究所所長。 ご質問、ご連絡はこちらまで
感冒の季節
Q : 私は68歳の男性です。毎年、流行性感冒の季節になると、欠かさず予防注射 (flu shots) をしてもらっているにもかかわらず、この2、3年、よく感冒にかかるようになりました。 なぜでしょうか。今年は漢方予防法を使ってみたいので、その方法をお教えください。また、漢方の治療法もお教えください。
A : 2001年にオランダのコロンジ博士らが、65歳以降になると流行性感冒の予防注射に対して免疫システムの反応が急激に鈍くなり、抗体生産が極端に低下するので効果が低くなると報告しました(J. Virol. 75, 2182-2187, 2001)。 2005年にも米国国立アレルギー・感染病研究所の流行病専門家ロン・サイモン博士らが、高齢者に対する流行性感冒の予防注射があまり効果がないのは、高齢者の免疫システムが低下しているので、感冒ウイルスを制御する抗体生産が若者より低いことによると報告しました (Archives of Internal Medicine 165, 266-272, 2005)。 従って、あなたが予防注射を受けたにもかかわらず感冒にかかったのは65歳以上の高齢者であるからです。 漢方による感冒予防法と予防注射による感冒予防の違いは、短期間の抗体生産を目安にしている予防注射に対して、漢方予防法は免疫システム全体の強化増強を図るのを持徴としている点です。 疾病に対する体の抵抗力は抗体だけでなく、体に侵入してきたウイルスや病原菌などを撃退する免疫細胞、補体、インターフェロンなども必要な要素になっています。 漢方は老衰した免疫システムを再活性化して免疫の総合力を増強するので高齢者の感冒予防に大変役立っています。 ちなみに、感冒予防に最も使用されている霊芝人参黄耆湯は、11種類の構成生薬全部に免疫増強効果があり、その中の8つの生薬にインターフェロン生産機能を活性化する働きがあります。 また、構成生薬の黄耆と甘草には抗ウイルス作用があるので、高齢者の感冒予防に素晴らしい効果をあげています。 感冒の漢方治療には、最近よく葛根湯速効療法が使われています。 葛根湯が感冒によく効く理由として、体の免疫システムを増強し、感冒ウイルスをいち早く体内から排除する効果があることが分かりました。 従って、葛根湯のこういう特性を生かして、葛根湯を1回常用量 (2錠) の2倍の4錠 (2g) にして1日4回服用するのが葛根湯速効療法で、この療法では感冒の症状が1日で消失することがよくあります。 咳を伴う感冒は黄連解毒湯と葛根湯を併用してください。 黄連解毒湯には鎮咳作用と去痰効果が強く、抗ウイルス効果もあるので、感冒が早く治るように働きます。
(2013年12月1日号掲載)