2022年12月21日
2022年の米外交を振り返ると、中国への対決姿勢を確定させた年と位置づけられるのではないか。
10月に踏み切った半導体の輸出規制強化はその象徴的なもの。
分断が叫ばれる米国だが、官界や産業界から聞かれた戦略的な中国擁護論は消え、反中国一色に。
台湾の重要性は増した。
日本の対応は難しい。
10月、ワシントン D.C. の住宅街にある台湾の駐米代表公邸に政官財界やメディアから1,000人以上が詰めかけた。
例年ある「中華民国建国」を記念する式典だが、8月のペロシ下院議長訪台に中国が軍事演習で応じた後だけに、参加者の会話の端々から「有事」感がのぞいた。
「台湾を脅かす脅威を前に気分は暗い」。
緑深い庭に設けられた演台で、神戸生まれの蕭美琴 (しょう・びきん) 台北駐米経済文化代表処代表があいさつした。
米国と中台の関係は複雑だ。
台湾に逃れた蔣介石 (しょう・かいせき) の中華民国を中国代表と見なしてきたが、1970年代にニクソン政権は大陸側に転じた。
交渉役のキッシンジャー大統領補佐官は回顧録で「中国と米国が和解の道を見つけたのは、時代の必然性を考慮すれば当然のことだった」と振り返る。
台湾の大陸反攻は現実性を失っていた。
米国は冷戦期のソ連への対抗上、中国を必要とし、経済界も支えた。
持ちつ持たれつの関係は一貫していたと言える。
いつから中国への見方が変わったのだろう。
米中関係に詳しいカリフォルニア大サンディエゴ校 (UCSD) 大学院教授のスーザン・L・シャーク氏は新著 “Overreach” で「2008年が分水嶺」と解説する。
この年の大統領選に当選したオバマ氏がリーマン・ショックに手をこまねいている間、中国はいち早く回復した。
北京五輪もあった。
経済発展は軍事力を拡張させ、2012年に共産党トップに就いた習近平 (しゅう・きんぺい) 氏が権威主義的な姿勢を鮮明にしたことで対立は決定化した。
世界No.1の地位を中国に取って代わられるのではないか ―― との不安が米国にあるのは事実だが、それだけではない。
トランプ政権の当局者は取材に「個人的に言えば、経済的に追い越されても構わない。それよりも中国がどういう国になるのかが問題であって、中国の国力を持った北朝鮮が存在する世界を想像してほしい」と語った。
米政界は中国問題で足並みが一致する。
バイデン政権はハイテク産業の将来を左右する半導体の輸出規制を強め、2023年の新議会で下院議長になる可能性のあるマッカーシー共和党院内総務は中国を追及する特別委員会の設置を明らかにした。
米中貿易戦争を引き起こしたトランプ政権期は大統領の気まぐれからブレる局面もあったが、中国を「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競争相手」 (国家安全保障戦略) と位置づけるバイデン政権には確固たる意思を感じる。
対立に出口は見えないが、国際関係に予断は禁物だ。
ニクソン政権の米中和解は日本にとって寝耳に水だった。
米国に梯子 (はしご) を外されても対応できる用意があるだろうか。
*スーザン・L・シャーク氏:現代米国を代表する中国政治研究者。1971年、ニクソン訪中に先立ち、米国初の人民中国への留学生の一人に選ばれる。1974年にMIT (マサチューセッツ工科大) より政治学博士号を取得した後も中国を訪れ、政官界をはじめとする広範な人脈を築いた。1997年~2000年に国務次官補として東アジア・太平洋局に所属し、クリントン政権の対中政策を統括した。現在、カリフォルニア大サンディエゴ校 (UCSD) 大学院教授として、太平洋地域の国際関係を教える。その鋭利な中国分析はワシントン・ポスト、フィナンシャル・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナルなど英語圏の主要紙誌に掲載されている。
*Picture:© VOA
(2023年1月16日号掲載)