Tuesday, 08 October 2024

強制送還恐れ、教会に籠城

強制送還恐れ、教会に籠城

不法移民ら「人間扱いを」

2019年11月5日

トランプ政権下で大幅に強化された不法移民の取り締まりと強制送還を恐れ、米国各地の教会に籠城 (ろうじょう) する移民らがいる。

米移民・税関捜査局 (ICE) の係官が宗教施設への立ち入りを控えているためだ。

ただ、先が見えないまま不自由な生活が長期化して疲労の色が濃い移民らは「人間扱いしてほしい」 と訴える。

シカゴの雑居ビル1階を改装した「ユナイテッド・メソジスト教会」。

周囲はヒスパニック (中南米系) 住民が多く、飲食店やスーパー、貸金業者の看板はスペイン語ばかりだ。

「3月に生まれた孫が来るときに使うの」。

2階の4畳ほどの自室で、メキシコ中部出身のフランシスカ・リノさん (49) は小さな揺りかごを示しながら寂しそうに笑った。

壁には「ママ、愛している」 という娘たちの手紙。

リノさんは2017年8月から牧師一家と一緒にここで暮らし、建物から一歩も出ない。

「もっと孫を抱きたい。長女が彼を産む際も病院に行けなかった。大事なときに家族と一緒にいられないのがつらい」

リノさんは1999年、米国で働いて家族に仕送りをしようとテキサス州へ不法入国。

米国人男性と結婚し3人の娘をもうけたが、永住権取得の手続き代行業者の不手際もあり、家族で1人だけ不法滞在だ。

オバマ前政権当時はICEに説明し1年ごとに特別滞在が認められたが、2017年1月のトランプ政権発足後、係官の態度が一変。

「この国にあなたの居場所はない。3か月以内に国外退去を」。取り付く島がなくなった。

娘たちは英語しか話せず、治安の悪い故郷には一緒に移住できない。

悩んだ揚げ句、教会に駆け込んだ。

トランプ政権下でもICEは教会やモスク (イスラム礼拝所) を尊重し、立ち入らない姿勢だ。

ただ、教会のスタッフ、セシリア・ガルシアさん (44) は「時々、これ見よがしに教会前にICEの車両が居座る。今後、彼らが踏み込んで来る可能性は十分ある」 と警戒する。

教会への立てこもりは国外退去を通告された移民の「最後の手段」 (米メディア)。

各地の教会が受け入れているが、大半はICEを刺激しないよう隠れて暮らし、人数など実態は不明だ。

ガルシアさんは「全米で100人くらいいるかもしれない」 と推測する。

ICEは最近、こうした移民の一部に退去命令に違反した罰金として数十万ドル (数千万円) の支払いを要求する文書を次々送付。

ガルシアさんは「払えない額を突き付け、追い出そうと圧力をかけている」と反発する。

リノさんは「強制送還されて家族と会えなくなった人たちに比べれば、まだ我慢できる。でも、この生活がいつまで続くのか」 と嘆いた。

*写真はイメージ


(2019年11月16日号掲載)