2023年12月10日
欧州連合 (EU) は12月9日、対話型人工知能 (AI) 「チャットGPT」など生成AIを含む包括的なAI規制法案に合意した。
いち早くAIの悪用を防ぐための法制化に向けた道筋をつけ、米国や中国などが展開する規制をめぐる主導権争いで一歩リードした格好だ。EUのルールが世界の標準となる「ブリュッセル効果」 (EU本部の所在地) を生む狙いもある。
▽生みの苦しみ
「これはマラソン協議」。
全加盟国で構成する理事会と欧州議会、行政執行機関の欧州委員会の3者による大詰めの法案協議は難航を極めた。
生成AIの規制や当局による生体認証の使用制限をめぐり理事会と議会が対立。
当初は12月6日、7日の2日間で終える予定だったが、20時間以上議論しても決着がつかず3日目に突入。
合意の発表は12月9日未明だった。
今後の政治日程から3者は2023年内の合意にこだわった。
EUは今年6月に欧州議会選を控え、選挙後には欧州委員会トップの欧州委員長やEUを国際的に代表する大統領が新しく選ばれる。
法案は3者が合意した上で、欧州議会と理事会でそれぞれ正式に承認する必要がある。
協議が2024年まで流れ込めば欧州政界は選挙モードに突入し、法案を成立させるための時間は限られる。
選挙までに決着が付かなければ、成立が見通せなくなる。
欧州議会の交渉担当者は合意後「EUはこれまで世界に素晴らしい貢献をしてきた」と国際規範形成における欧州の実績を強調。
法案は「我々の未来に大きな影響を与えるものだ」と満足感を示した。
▽競争激化
AIを規制する動きは世界的な広がりを見せる。
バイデン大統領は昨年10月、AIのリスク管理のため、国家や経済の安全保障への影響が懸念される高度なAI技術の開発企業に、安全試験の結果などの情報提供を義務付ける大統領令を出した。
偽情報の拡散対策で政府公式コンテンツを認証する仕組みを導入し、医療や教育での活用促進策も盛り込んだ。
開発と利用を管理する国際枠組みの確立へ日本やインドなどとも連携する。
ホワイトハウスは「AIの将来性とリスク管理で米国が世界をリードする」と強調した。
米国にはマイクロソフトやグーグルなど世界的AI企業や有力研究機関が集中しており、国際的なモデルとなる可能性がある。
連携相手に開発を急速に進める中国は含めていない。
大統領令は「AIを安全で信頼できるものにする」と明記した。
安全試験の結果について、戦時など重要局面で民間企業を統制する権限を大統領に与えた国防生産法に基づき、AI技術の公開前に提出するよう企業に要求した。
従わなければ、政府が訴訟を起こすことができる。
試験の基準は国立標準技術研究所 (NIST) が作成する。
米商務省は、生成AIによる動画や音声を識別可能にする「電子透かし」の技術や、コンテンツの認証に関する手引を作成する。
他国にも参考になる内容とし、国際的な基準作りを主導する考えだ。
医療や新薬開発でのAI利用を促すため、補助金を拡充。
同時に、責任ある活用のために健康被害の報告を集める仕組みを厚生省に作る。
教育分野では、個々の生徒に合わせた授業提供システムの開発を支援する。
犯罪捜査や裁判の公正を保つことを目的に、監視や仮釈放の手続きにAIを使う事例集も作成。
有能な技術者を国外から獲得するため、査証 (ビザ) の取得や移民手続きの刷新も図るとした。
優先度の高い対策は90日以内に実行する。
個人データ保護のための法律制定を議会に求めた。
(2024年1月1日号掲載)