2024年8月10日
ブラジル・リオデジャネイロで開かれた20か国・地域 (G20) 財務相・中央銀行総裁会議は、国際課税に関する宣言を採択した。
巨大IT企業を念頭にしたデジタル課税の早期実現の方針を盛り込んだ。
G20で国際課税に関する閣僚宣言が取りまとめられるのは初めて。
財務省の神田真人 (かんだ・まさと) 財務官が会議後に記者団の取材に応じ、明らかにした。
宣言では議長国ブラジルが推し進める富裕層への課税強化にも言及している。
デジタル課税は、巨大IT企業などに適正な課税をすることが狙い。
事業拠点がない国や地域も、利用者がいれば売上高に応じて法人税を受け取れるようにする。
2021年の経済協力開発機構 (OECD) 会合で約140の国・地域が合意した。
導入には多国間条約の署名が必要だが、先送りされている。
グーグルなどの巨大ITを抱える米国では反対論があり、11月の大統領選で返り咲きを狙うトランプ前大統領は法人税の減税策を打ち出している。
G20は大統領選前に一致した姿勢を示すことで、デジタル課税の導入を進めたい考えだ。
また、日本政府は会議で為替相場の過度な変動や無秩序な動きについて懸念を表明した。
米国などを念頭に、一部の国で金利が高い状態が続き、通貨安や資本流出につながることを指摘する意見も出たという。
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G20財務相・中央銀行総裁会議は国際課税改革についての宣言を公表し、改革への意気込みを示したが、自国税収の増減をめぐり参加国の思惑は交錯。
巨大ITを念頭に置くデジタル課税などは「100年に一度の改革」とも称されるが、漂流する可能性がある。
「予想を上回る成果だ」。
会議の議長を務めるブラジルのフェルナンド・アダジ財務相は閉幕前の記者会見で胸を張った。
宣言は、OECDが主導したデジタル課税の実施に向けた条約署名を急ぐ姿勢を強調。
ブラジルが提唱する富裕層の課税強化は「超富裕層を含む全ての納税者が公平に税金を負担することが重要だ」と盛り込んだ。
ただ、デジタル課税は条約署名の時期を示せず、富裕層課税でも「主権を尊重」や「自主的に」など、妥協的な文言を散りばめた。
G20が一体となって取り組む強い意思は感じにくい。
背景には各国の立場の隔たりがある。
デジタル課税が導入されれば、グーグルなど巨大ITを多く抱える米国の税収が減り、新興国などでは売り上げに応じた税収増が見込める。
アダジ氏は会見で「一国だけが合意のハードルとなっている」と米国を暗に批判。
一方、ジャネット・イエレン米財務長官は欧米メディアの取材に「インドや中国、オーストラリアが抵抗している」と矛先を他国に向けた。
OECDで国際課税改革を主導してきた日本は、協議が座礁しないよう議論の加速を訴える。
富裕層の課税強化は、ブラジルが格差是正を目的に提唱。
富裕層が資産管理会社を設立することなどによって、税負担を逃れているとの問題意識がある。
ただ、米国では富裕層が選挙資金の寄付などを通じて政治に強い影響力を持つ。
宣言では議長国の顔を立てつつ、判断の余地を残して骨抜きにしようとする各国の思惑が透ける。
▪︎ 米国に署名迫る宣言
京都大大学院の諸富徹 (もろとみ・とおる) 教授(財政学)の話:国際課税の宣言は、デジタル課税の導入に反対論が根強い米国内に多国間条約の署名を迫る内容だ。米国は大統領選に加えて連邦議会選も控えている。反対意見のある共和党の議席が増えると、署名が実現しない可能性が出てくる。宣言の中で署名の具体的な期限を明記しなかったのは、できる限り早い合意を望む一方、達成できない場合に協調の機運が大きく失われるリスクに備えた可能性がある。
(2024年9月1日号掲載)