10/1/2023
国際通貨基金 (IMF) の増資交渉が大詰めを迎えた。
焦点は出資比率を実情に応じて見直すか否か。
発言力を伸ばしたい中国とその台頭を抑えたい米国が激しく火花を飛ばす。
低成長が続く日本は、外国為替相場の円安を背景にドル換算での経済規模が目減りしたことも痛手で、存在感が薄くなっている。
▽拒否権
「各国均等での (出資の) 割り増しに対する支持を取り付けたい」。
イエレン米財務長官は9月8日、インド・ニューデリーで開いた記者会見で突如、こう切り出した。
翌日からの20か国・地域 (G20) 首脳会議を控えたタイミングで出資比率を変えない意向を示し、中国やインド、ロシアなどの新興5か国 (BRICS) を牽 (けん) 制した。
米政権が危惧するのが、経済規模に応じた出資比率の見直しによる中国の発言権拡大と、相対的な米国の地位低下だ。
米中の出資比率は現在は11ポイントの差があるが、現行の計算方式を反映させれば、両国はほぼ均衡する。
米議会は対中強硬姿勢を強め、「中国を利する改革案への理解は到底得られない状態」 (米議会関係者)。
IMFの増資は最大の発言権を持つ米国の賛成なしには決められず、米政府は拒否権もちらつかせ、現状維持での強行突破を図る。
▽反発
中国をはじめとする新興国は反発する。
米国や日本など先進国の事情は既得権益の維持としか映らないからだ。
自国の発言権を拡大するため「相対的地位の高まりを反映させるべきだ」と、出資比率の見直しを訴える。
増資改革の議論は2010年の前回決定後、2020年までに一度行われるはずだった。
このときに実施していれば、中国の出資比率が日本を抜いて米国に次ぐ2位に浮上していた公算が大きい。
ただ、各国の主張が噛 (か) み合わず、今年に先送りした。
出資順位維持を目指す日米は「将来的には新興国の発言権を増やす」 (米財務省高官) などと根回しし、比率見直し以外での条件交渉の道を模索。
大国の思惑の狭間 (はざま) で、新型コロナウイルス禍で鬱積 (うっせき) した新興国/途上国の不満は解消されず、禍根を残す展開になりそうだ。
日本、IMF出資2位から転落か、中独下回る可能性
IMFが年内にまとめる増資改革で、日本の出資順位が現在の2位から転落する可能性があることが分かった。
経済規模に応じた現行の計算式を当てはめれば、中国とドイツに逆転され4位となる公算が大きい。
近年の日本経済の停滞や円安が反映される形で、日本の国際的な発言力低下に直結する。
増資改革は新型コロナウイルス禍などで資金不足に悩む新興国/途上国支援を手厚くする狙い。
各国は出資比率が高いほど重要事項を決める際の投票権が増えて発言力が高まる。
出資構成は財政危機時に最後の貸し手の役割を担うIMFの運営方針を左右する。
前回の増資は2010年に決まった。
今年10月にモロッコで開く会合で大枠をまとめ、12月15日までの正式決定を目指す。
現在の出資比率は米国 (17.4%) が首位で、次いで日本 (6.5%) と中国 (6.4%) が僅差で並ぶ。
ドイツ、英国など欧州勢が続く。
日本は「現在2位の出資順位に変更がない形での増資」を各国に求め、中国の発言権拡大を阻止したい米国も現状の比率維持での増資を強く主張。
中国など成長が著しい新興国は経済規模を比率に反映するよう求め、議論は収束していない。
出資比率は原則、加盟国の経済規模に応じ決めてきた。
前回の増資は米議会の承認に時間がかかり、2016年に実施された。