2022年8月2日
核拡散防止条約 (NPT) 再検討会議は8月1日午前、7年ぶりにニューヨークで開幕した。
岸田文雄首相は初めて日本の首相として演説した。
「核兵器のない世界」の実現へ、核兵器不使用の継続など5本柱の行動計画を提唱。
「長崎を最後の被爆地に」と呼びかけた。
世界の若者に被爆地への訪問を促すため、国連基金の創設を表明。
ウクライナに侵攻したロシアによる核の威嚇 (いかく) を批判した。
ただ、演説で日本が批准していない核兵器禁止条約には触れず、被爆者から反発の声も上がった。
NPTには、191か国・地域が加盟する。
発効から52年を経たNPT体制は、核軍縮停滞やウクライナ情勢を背景に弱体化が指摘されており、会議成功はおぼつかない情勢だ。
唯一の戦争被爆国として、対立が強まる核保有国と非保有国の「橋渡し役」として貢献できるかどうかが焦点だ。
首相は演説を英語で実施した。
ウクライナ情勢に触れ「核兵器の惨禍」が繰り返される恐れへの深刻な懸念に言及。
核なき世界への道のりは「一層厳しくなっている」とし、現実的な歩みを進める原点としてNPT体制の意義を強調した。
各国の政治指導者らが核軍縮の方策を話し合う「国際賢人会議」の初会合を11月23日に広島で開催すると発表した。
行動計画は「ヒロシマ・アクション・プラン」として打ち出した。
核不使用継続のほか、①核戦力の透明性向上、②核兵器数減少傾向の継続、③不拡散と平和的利用の促進、④被爆の実相の認識を世界で共有――で構成されている。
国連基金は被爆実相への認識を広げるため「ユース非核リーダー基金」として1,000万ドル (約13億円) を拠出。
広島、長崎に招き、核廃絶に取り組む次世代のリーダーを育成すると意欲を示した。
ロシアによる原発攻撃を「決して許されない」と非難。
東京電力福島第1原発事故を教訓に、被災地復興や原子力の平和的利用を進めるとした。
首相は演説後、来年5月に広島で開く先進7か国首脳会議 (G7サミット) につなげるため「今回の会議で、ぜひ具体的な成果を出すためにしっかり努力したい」と記者団に強調した。
演説をめぐって、政府に核禁条約の署名・批准を求めている広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之 (みまき・としゆき) 理事長 (80) は「総論的で条約に触れず、核兵器廃絶に向けた具体的な話もなかった」と不満を述べた。
岸田首相は2日夜、ニューヨークから帰国した。
NYで「核廃絶」を求めるデモ行進、被爆者も参加
核拡散防止条約再検討会議が開かれていたニューヨークの国連本部近くで8月2日、米国の平和団体が核廃絶を求めてデモ行進した。
広島市在住の被爆者、佐久間邦彦さん (77) も「人類と地球が第一」と書かれた横断幕を手に参加。
「世界と一つになり (核廃絶の) 意思表示をすることが大切だ」と語った。
約100人が国連本部前に集まり、怪物の被 (かぶ) り物を核の脅威に見立てたパフォーマンスをしたり、歌を歌ったりした。
その後、太鼓やアコーディオンの演奏に合わせ「核兵器の所持は人類に対する犯罪だ」「核兵器を廃絶せよ」などと書かれたプラカードを掲げて、国連米政府代表部前までの約130メートルをパレード。
参加者の中には、米政府が核兵器禁止条約に署名するよう訴える人もいた。
代表部前では座り込みも行われた。
*写真上:日本の首相として初めてNPT再検討会議に出席し、演説を行った岸田首相 (8月1日=ニューヨークの国連本部)
(2022年8月16日号掲載)