2022年8月14日
気候変動対策や企業増税を盛り込んだ歳出・歳入法案が成立し、バイデン大統領が就任以来掲げてきた目玉政策がようやく実現する。
ただ、家計や企業はこの夏も悲鳴を上げるような物価高騰に見舞われている。
2か月後に中間選挙が迫る中、政権の支持率低迷が続いている。
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オレゴン州ポートランドの「Ota Tofu (オータ・トーフ)」は記録的な物価高に耐えきれず、昨年11月に豆腐1丁の値段を2.75ドル (約370円) に上げた。
新型コロナウイルス禍前より2割近く高い。
米最古の豆腐店とされ、約110年にわたって地元の日系人らに支持される老舗。
原材料の大豆は相場が高止まりし、仕入れなどにかかる物流費もかさむ。
賃金を上げても人手確保は難しい。
工場長が指差した先には積み上げられた白いバケツ。
豆腐作りに不可欠な備品だが「コロナ禍前の2倍の値段になった」。
もう少し値上げしたいのが本音だが、客離れを招く恐れもあり、悩みは尽きない。
米国の今年7月の消費者物価指数は前年同月比で8.5%上昇。
鈍化の兆しはあるが、第2次石油危機後のインフレが長期化していた1980年代以来、約40年ぶりの高い水準が続く。
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世論調査会社ギャラップによると、就任時は57%だったバイデン氏の支持率は、今年7月時点で38%に低迷している。
物価高が大きな足枷 (あしかせ) で、政権の「通信簿」とも言える11月の中間選挙では、上下院とも野党共和党に過半数を握られる恐れがある。
バイデン政権が実績として期待するのは、歳出規模4,300億ドル (約57兆4,000億円) 超の法案可決で追い風を得る気候変動対策だ。
2030年までに温室効果ガスの排出量を2005年比で50~52%削減する目標に対し、財政的な裏付けが与えられ、与党民主党は40%削減まで目処 (めど) がついた、と試算する。
ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格が急騰し、世界的な気候変動対策の流れが滞る中、環境シンクタンク「世界資源研究所」の米国ディレクター、ダン・ラショフ氏は「世の中を変える法律」と強調する。
米国の動きは温暖化対策への巨額投資を促し、日本へも影響しそうだ。
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バイデン氏は悲願とも言える歳出・歳入法案を下院が可決したのを受け、演説動画を公表し「米国や世界で最大級の気候変動対策となる行動だ」と強調。
脱炭素化へ巨額資金を投じる内容で世界的に停滞が目立つ温暖化対策の動きを加速させそうだ。
採決は賛成220、反対207で、野党共和党は反対に回った。
名称は「インフレ抑制法案」。
議会上院では8月7日に既に可決している。
バイデン氏は2021年の大統領就任後、成長戦略の目玉として構想を発表。
最終的に可決された法案では歳出の大半である3,700億ドル程度を気候変動対策に充てた。
再生可能エネルギーへの移行に向けて各州や電力会社に助成。
電気自動車 (EV) の普及促進や、強力な温室効果ガスであるメタンの排出削減事業も実施する。
医療保険の補助を延長し、高齢者向け公的保険メディケアで、薬価引き下げを目指して製薬会社と交渉ができるようにする。
税制改革では、巨大企業への15%の最低税率や企業の自社株買いへの1%課税を盛り込んだ。
政府債務も減らす。
歳出総額は与党内の反対で2021年、当初の3兆5,000億ドルから1兆7,500億ドルに半減。
その後、一旦は頓挫したが、4,300億ドル超へと大幅に減らし、実現に漕 (こ) ぎ着けた。
*Picture:© thongyhod / shutterstock.com
(2022年9月1日号掲載)