2023年4月1日
日本の集団的自衛権行使を可能にした安全保障関連法は3月29日で施行から7年を迎えた。
日本政府は昨年末、安保関連3文書を改定し、歴代政権が持たないとしてきた相手国の領域内を叩く敵基地攻撃能力を「反撃能力」と称して保有すると決めた。さらに、日本に対する武力攻撃がない段階でも、米軍に協力して敵基地攻撃する可能性も浮上。
「米国の戦争」に日本が徐々に巻き込まれていく恐れが一層強まっている。
2026年、台湾への上陸を試みる中国軍の艦隊を、米軍が自衛隊と共に食い止める――。
米シンクタンクが今年1月に公表した台湾有事の机上演習で、日米は台湾防衛に成功するものの、甚大な損害を被る結果となった。
同じ1月の衆院予算委員会では、立憲民主党の岡田克也元外相が「存立危機事態における反撃力の行使について、具体例を説明してもらいたい」と岸田文雄首相に迫った。
首相は相手国の意思や能力、事態の規模といった条件を列挙。
「総合的に考慮する」と述べ、攻撃は可能との認識を滲 (にじ) ませたが、実行するケースの例示は「手の内を明かすことになり控える」と煙に巻いた。
安保法は、日本が攻撃されていなくても米国など密接な関係にある他国が攻撃を受け、日本の存立が脅かされる場合を「存立危機事態」とした。
要件を満たせば集団的自衛権を行使し、自衛隊が出動。
機雷の除去や他国の艦艇の防護などに当たることが想定される。
日本政府内では台湾をめぐる米中の武力衝突が、存立危機事態になり得る —— との認識が広がる。
一方で、事態認定の基準は曖昧 (あいまい) で、実際にどういう場合が該当するのかは判然としない。
そのため、日本が米国に迎合して自衛隊を出すために、緊張度の高い状況だと恣 (し) 意的に判断するのではないかとの指摘は絶えない。
防衛省制服組は「日本が攻撃されていない段階で、こちらから手を出せば、むしろ攻撃を招くことになる。
台湾有事で存立危機事態になっても、洋上給油などで米軍を支援するのが限界ではないか」と話し、敵基地攻撃に踏み切るのはリスクが大きいとみる。
自衛隊では米軍との高度な軍事行動を可能とする装備の導入が進む。
イージス護衛艦「まや」型は、ミサイルや航空機の位置情報を高精度で把握し、米軍と共有できる「共同交戦能力 (CEC) システム」を搭載。
戦力の中核である空母をはじめとする米艦を守る役割を担える。
護衛艦「いずも」型は事実上の空母に改修し、F35Bステルス戦闘機を搭載する計画だ。
防衛省幹部は「日米の艦艇で互いのF35Bを発着できるようになる」と話す。
日本政府は防衛費を2023年度以降の5年間で43兆円に大幅増額する。
米国製巡航ミサイル「トマホーク」を400発取得し、敵基地攻撃に用いる。
こうした装備を持ちながら、米国から攻撃を要請された場合、日本は「NO」と言えるのか。
自衛隊幹部は「自ら判断を下すのが理想」とした上で「有事には現実が優先される。
米国の求めといった、眼前の状況に合わせた行動を取らざるを得なくなるのではないか」と加速度を増す一体化に懸念を募らせた。
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*補足:1月13日に行われた日米首脳会談で、岸田首相はバイデン大統領とホワイトハウスで会談し、防衛力強化や防衛費増額の方針を説明。
バイデン氏はこれを称賛し、日米同盟の深化へ決意を共有したと語った。
両首脳は、他国領域のミサイル基地などを破壊する日本の反撃能力 (敵基地攻撃能力) の開発と運用に向けた協力の強化で一致。
新興技術や宇宙、サプライチェーン (供給網) でも連携を確認した。
中国やロシアに対抗するため、5月の先進7か国首脳会議 (G7広島サミット) を前に結束を図った形。
バイデン氏は「日米同盟を現代化する」と言明。
防衛費増額方針については「歴史的だ」と歓迎し「日本の防衛に関する責務を完全に果たす」と強調している。
共同声明で、日米安全保障条約第5条に基づき、米国は核を含むあらゆる能力を用いた日本の防衛に対する揺るぎない責務を表明。
台湾海峡の平和と安定の重要性を指摘し、ロシアのウクライナ侵攻に関し「一方的な現状変更の試みに強く反対する」と記した。
(2023年4月16日号掲載)