2022年12月18日
アジア太平洋地域の通商秩序をめぐる覇権争いが激しくなってきた。
アジア太平洋経済協力会議 (APEC) で来年議長を務める米国は、主導する新たな枠組みでの成果実現へ動きを加速。
その米国が離脱した環太平洋連携協定 (TPP) では中国の加盟が焦点となっており、日本が鍵を握るとの見方もある。
▽ 飛び交う草案 ▽
昨年12月、30℃近くまで気温が上昇した南半球のオーストラリア・ブリスベン。
クリスマス休暇で観光客が寛 (くつろ) ぐ中、書類やタブレット端末を抱えたスーツ姿の交渉官が会議場に出入りしていた。
12月10日から6日間にわたって開かれたのは、バイデン政権が主導する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み (IPEF)」の首席交渉官会合。
TPPに戻らなかったバイデン大統領が2021年10月に提唱し、交渉入り決定後、14か国から約450人の実務者が集まる初の対面会合だった。
関係者によると、米政府は今後の成果文書作成を見据えた草案を次々提示。
日本なども文案を繰り出した。
バイデン政権は脱中国依存を念頭に置いた供給網構築では「早期に合意できる」 (米関係者) と意気込み、今年11月にカリフォルニアで開くAPEC首脳会議をヤマ場と位置づける。
▽ 隠せぬ弱点 ▽
ただ、本格的な詰めはこれからだ。
「交渉というよりは米国のプレゼンテーションを聞き、こちらの立場を説明するものだった」。
東南アジアの交渉官が証言するように、具体的果実は見えない。
IPEFは痛みを伴う関税引き下げを扱わない異例の貿易交渉と言える。
シンガポールのアジア通商センターのデボラ・エルムズ所長は「各国が本当に求めているのは、IPEFに含まれていない米国への市場アクセスだ」と弱点を喝破する。
▽ 先延ばし狙う ▽
こうした中で、2021年秋にTPP加盟申請という攻勢をかけたのが中国だ。
中国は、日韓や東南アジア諸国連合 (ASEAN) 各国が参加する地域的な包括的経済連携 (RCEP) に加盟済み。
米国と並ぶ経済大国のTPP交渉入りを歓迎する声は東南アジアを中心に少なくない。
TPPでは、中国に先駆けて申請した英国の加入を認めるかの交渉が大詰めを迎えている。
米国との連携を重視する日本は、次に控える中国の加盟問題が「TPP乗っ取り」につながりかねないと警戒。
「(中国には) 長々と時間がかかればいい」 (政府関係者) と“先延ばし”を狙う。
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*IPEF:米国が主導する「インド太平洋経済枠組み」の略称。英語の「Indo-Pacific Economic Framework」の頭文字をつなげたもので、「アイペフ」と読む。日米韓やオーストラリア、東南アジア諸国など計14か国が参加し、2022年5月に発足。巨大経済圏構想「一帯一路」などで影響力を増す中国への対抗軸を構築するのが狙い。台湾は参加を希望していたが実現せず、別の枠組みで米国と連携を図る。
(2023年1月1日号掲載)