2021年1月7日
1月20日に民主党のバイデン次期大統領が就任し新政権が発足する。
4年ぶりの政権交代で、差別的な言動もいとわない共和党のトランプ大統領の下で拡大した社会の分断修復を目指す。
「米国第一」主義も同盟重視の国際協調路線へ転換。
ただ、政治対立の根は深く、中国の台頭にも直面、大統領選で掲げた「正常への回帰」へは苦難も予想される。
新政権の閣僚は多様性を重視した陣容。
女性の財務長官や黒人の国防長官、先住民系の内務長官や同性愛者を公言する運輸長官など、上院で承認されれば初となる人選が目立つ。
軍やビジネス界出身の白人男性が多かったトランプ政権とは対照的に、人種などに配慮して国民融和を図る姿勢を打ち出している。
1月3日に開会した新議会は下院で民主党が多数を保ったものの、党内左派の発言力が拡大し、バイデン氏が調整に苦慮することも予想される。
下院は民主党が222、共和党が211の議席をそれぞれ確保し、米メディアによると民主党は過去20年で最小の多数派政党となった。
造反を極力避ける必要性が高まる。
1月5日に行われたジョージア州上院議員の決選投票の結果、2議席とも民主党候補が現職の共和党候補に勝利し、上院の議席数は50対50となった。
上院議長は副大統領が兼任することから、ハリス時期副大統領が議決のキャスティングボート (決定投票権) を握り、民主党は上院の支配権を確保。
バイデン新政権の政局運営に追い風が吹く。
バイデン氏は地球温暖化対策やインフラ投資を主要政策に掲げている。
一方、共和党は財政規律に無頓着だったトランプ大統領の重しが外れれば、小さな政府を志向する従来の姿勢を強調し、歳出拡大に注文を付けるとみられる。
民主党では上下両院の90人以上が「プログレッシブ (進歩派) 議連」に名を連ね一大勢力となっている。
中道穏健派のバイデン氏に対し、より大胆な環境政策、医療保険制度の拡充、軍や警察予算の他分野への振り分けなどを求めて圧力を強める可能性がある。
バイデン氏が目指すのは「品位ある政治」。
ツイッターで一方的に人事や政策を発表して混乱を招いたトランプ氏の劇場型政治と決別し、省庁間の調整や専門家らによる政策立案を重視する。
ただ、新型コロナウイルスへの対応や人種差別反対デモ、大統領選を通じて「米国の分断はかつてないほど広がった」 (ワシントン・ポスト紙)。
選挙での敗北を認めず、投開票に不正があったと繰り返すトランプ氏の主張は支持層に浸透しており、分断の傷を癒やすのは容易ではない。
対外的には、初の米朝首脳会談のようなトップ同士の「ディール (取引)」に依存したトランプ氏とは一線を画し、日本を含めた同盟国との連携強化を図る。
政権発足初日に地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」への復帰手続きを取り、イラン核合意への復帰も目指すが、失墜した米国の指導力を取り戻すには時間がかかる恐れがある。
最大の外交課題となるのが対中政策。
「新冷戦」と評されるほど関係が悪化した米国と中国。
気候変動問題などでは対話を目指すものの、覇権主義的な動きや香港問題などをめぐって超党派で反発が広がり、安易な妥協は許されない。
(2021年1月16日号掲載)