12/1/2024
11月の20か国・地域 (G20) 首脳会議は、世界経済が悪化することへの懸念を強調する宣言を取りまとめた。
トランプ次期大統領が掲げる関税強化は世界を揺さぶり、米国自体も減税や通商政策によるインフレ再燃が警戒される。
中国も停滞が続き、世界経済は牽 (けん) 引役となる2大国がいずれも難題を抱え、不透明感が高まっている。
▽下振れ
「混乱が増大し、国際社会は覇権争いの中で方向性を見失いながら進むことを余儀なくされている」。
G20議長国ブラジルのルラ大統領は会議で、対立の構図を背景に課題が山積する世界情勢をこう総括した。
首脳宣言は世界経済について「高い不確実性の中で下振れリスクが高まっている」と強調。
ウクライナや中東での紛争の継続、拡大や、米中対立で経済的分断が生じているほか、気候変動による自然災害も増大していることが背景にある。
国際通貨基金 (IMF) は米大統領選前の10月、世界全体の2029年の実質成長率を3.1%と予想し、2024年の3.2%からの減速を見込んだ。
5年後の見通しとしては「過去数十年で最も低い水準だ」と説明した。
米国は2.8%から2.1%に減速する見通し。
加えて、大統領選の結果を受け、トランプ氏の掲げる政策が新たな不安定要素となる。
ピーターソン国際経済研究所 (The Peterson Institute for International Economics=PIIE) は関税強化や不法移民の強制送還により「労働力減少やインフレの上昇をもたらす」と指摘する。
▽不確実性
米国と並ぶ世界経済の大きなエンジンである中国は、長引く不動産不況の影響が経済全体に波及し、個人消費の冷え込みや地方財政の悪化を招く悪循環に陥っている。
習近平指導部は9月下旬以降、金融緩和やインフラ投資の加速などの経済対策を打ち出しているものの、トランプ氏が公約通り対中関税を60%に引き上げれば、経済に深刻な打撃を受けることは不可避だ。
日本や欧州も米通商政策次第では輸出企業が打撃を受ける。
存在感を増す新興・途上国「グローバルサウス (Global South)」も世界経済を引っ張るだけの力強さはない。
さらに、シンクタンク戦略国際問題研究所 (The Center for Strategic and International Studies=CSIS) のラインチ氏は、打ち出す政策の予測が難しいトランプ氏の復帰は「不確実性を生み出し、企業の投資にマイナスの影響を与える」とも分析している。
討議初日に首脳宣言を公表する異例の展開となったが、「米国第一」を掲げるトランプ前大統領の返り咲きで警戒感が強まる保護主義への反対姿勢を明確に示していない。
トランプ氏を過度に刺激しないよう配慮した可能性がある。
ウクライナ情勢に懸念を示したものの、侵攻したロシアを名指しした批判も避けた。
首脳会議は11月19日に2日間の日程を終えて閉幕した。
(2024年12月16日号掲載)