Saturday, 22 February 2025

関税武器に揺さぶり 「劇場」再び、日本警戒

11/26/2024

トランプ次期大統領が中国、メキシコ、カナダの3か国に対する関税強化を表明した。

麻薬や不法移民の流入など経済以外の問題にも、関税を「武器」に揺さぶりをかけるトランプ流。

交流サイト (SNS) を使い、重要政策を唐突に公表する「トランプ劇場」が再び幕を開け、日本企業にも警戒が広がる。

▽「権限乱用」

「対応するまで、彼らには非常に大きな代償を払ってもらう」。

メキシコとカナダへの関税に関し「タリフマン (関税の男)」を自任するトランプ氏はこう強調した。


トランプ氏が貿易とは無関係の問題に関税を交渉カードとして利用するのは初めてではない。


第1次政権の2019年にも不法移民対策を求め、メキシコからの全輸入品への関税強化を表明。

経済的な悪影響を懸念した身内の共和党内からも「大統領権限の乱用」との批判が起きる中、メキシコ当局による国境警備の増強など「前例のない措置」 (国務省) を引き出し、約1週間で関税を引っ込めた。


トランプ氏は今回、メキシコを再び槍玉 (やりだま) に挙げたほか、カナダも問題視した。

同氏は早くもカナダのトルドー首相と協議し、貿易と国境管理について話し合った。

▽成果

トランプ氏が問題視する医療用麻薬フェンタニルは、中国で原料となる化学物質が製造された後、メキシコで合成されて米国に密輸されるという。

ヘロインの約50倍強力な鎮痛薬で依存性が高く、米国で18~45歳の主要な死因となるなど、過剰摂取による死亡事故が頻発している。


大統領選では、薬物の流入はバイデン政権の国境政策の甘さが原因と批判。

麻薬密売業者に「死刑を科す」と訴え、薬物中毒者の増加や治安悪化への懸念を抱く有権者を取り込んだ。


トランプ氏は「(薬物流入への) 対応をやり切らなかった」と中国を批判した。

ただ、3か国への圧力には、就任早々に不法移民とフェンタニル流入阻止で成果を出したいとの考えが滲 (にじ) む。

在米中国大使館はトランプ氏の発表に「貿易戦争や関税戦争で勝利する者はいない」と反発した。

▽驚き

日本企業にとっても対岸の火事ではない。

メキシコは日本の自動車メーカーにとって米国に輸出する車両の生産拠点だ。

各社は大統領選前から、一定の条件を満たせば関税が掛からない現行ルールが一転しかねない事態に気を揉 (も) んできた。


日本貿易振興機構 (ジェトロ) の石黒憲彦 (いしぐろ・のりひこ) 理事長は11月26日の記者会見で、メキシコとカナダに対する関税引き上げについて「結構な驚きだ」と表現。

「自動車産業にかなり影響がある。

供給網が見直される可能性がある」と予想した。

経団連の十倉雅和 (とくら・まさかず) 会長も「日本企業への影響は甚大になる恐れがあり、注視していきたい」と警戒感を露 (あらわ) にしたた。

(ワシントン、東京共同)

(2024年12月16日号掲載)