2022年10月16日
11月8日に迫った中間選挙で、共和党のトランプ前大統領が2016年に当選する原動力となったラストベルト (錆びた工業地帯) が再び激戦の舞台となっている。
中西部オハイオ州は上院多数派の行方を左右する州の一つで、民主党候補がトランプ氏の姿勢に同調する異例の戦術で巻き返す。鍵を握るのは、既存政治に疎外感を感じてきた白人労働者層の取り込みだ。
「トランプの対中強硬策にも対中関税にも賛成だった」
10月10日のテレビ討論会で上院選の民主党候補ティム・ライアン下院議員 (49) が繰り返した。
共和党候補の実業家J・D・バンス氏 (38) と争う選挙戦は、世論調査ごとに優劣が変わる大接戦となっている。
「スーツではなくジーンズで来た。彼は労働者の気持ちが分かっている」
10月5日、オハイオ州北西部の小都市ライマでライアン氏の演説を聞いたノーマン・キャップスさん (74) は高く評価する。
配管工組合で長年活動した民主党支持者だ。
オハイオ州はかつて民主、共和両党が拮抗し、大統領選の行方を占う「指標州」と目された。
だが、2020年大統領選では全米で敗北したトランプ氏が民主党候補だったバイデン大統領に得票で8ポイント超上回り、共和党地盤になったと評された。
大きな要因は白人労働者層の民主党離れだ。
グローバリズムを推進し、工場を海外流出させ、非白人の権利や多様性ばかりを重視する--。
「多くの仲間が離れていった。今の民主党は急進的すぎる」
キャップスさんは燻 (くすぶ) る不満を代弁した。
「中道回帰」の必要性を訴えるキャップスさん。
ただ、トランプ支持層に秋波 (しゅうは) を送る戦術は、共和党支持に回った層を取り戻す苦肉の策とはいえ、リベラル派の反発を買いかねない諸刃 (もろは) の剣だ。
一方のバンス氏はトランプ支持層を固めきれず焦りがにじむ。
10月5日の州中部コロンバスの集会ではライアン氏について「熱烈なトランプ支持者のふりさえしている」と警戒感を隠さなかった。
バンス氏はオハイオ州の貧困家庭に育った。
半生を綴った著書『ヒルビリー・エレジー』は白人労働者層の悲哀を描いてベストセラーとなり、映画化もされている。
上院選出馬に当たっては「2020年大統領選は不正だった」とのトランプ氏の根拠なき主張に同調し、推薦を取り付けた。
それでも苦戦するのは、かつてトランプ氏を「米国のヒトラー」などと非難したからだ。
コロンバスの集会に参加したエミリー・ランザーさん (49) は「過去の発言にわだかまりを抱えている人もいる」と語った。
「私の支持が欲しくて、ゴマスリに必死だ」
(2022年11月1日号掲載)