4/20/2023
私たちが投げかける質問に応じて文章を綴ったり、指示に従って絵を描いたりする「生成AI」と呼ばれる人工知能 (AI)。
インターネット上に作られた仮想空間で、自分の分身「アバター」を使って他の参加者らと交流できる「メタバース」。
こうした新たなテクノロジーの発展は、私たちに何をもたらすのか。
論壇での議論も活発化している。
昨年11月に公開され、世間を騒がせたのが米新興企業が開発した対話型AI「チャットGPT」だ。
質問を打ち込むと、AIがネット上の膨大なデータを基に自然な回答を書き出す。
文章の要約や小説の創作もこなす。
元防衛大教授の花田吉隆 (はなだ・よしたか) は「チャットGPTの出現で、人間は人間であることをやめるのか」 (『論座』3月1日) で、人にとって本質的な「考える」という行為をAIが代行する危険性に目を向ける。
「人間は考えることで人間でありうる」と花田。
自ら文章などを創り上げる「Generative AI の出現は、人間にとって進歩でなく、退行でないのか」と懸念を示す。
一方、解剖学者の養老孟司 (ようろう・たけし) は『表現者 クライテリオン」』3月号の特集インタビュー「養老孟司、SDGsとAIを語る」で「AIを進化させる過程で、AIには還元し切れない人間の意識や自然を問わざるを得なくなってくる」と語り、技術の進展を肯定的に捉える。
「AIに置き換えられるものを一つずつ取り除いていくと、最後に、どうしてもAIに置き換えられないものが残る」。
そこで浮かび上がってくるのが、古代ギリシャ以来探究され続けてきた「人間とは何か」という問いだという。
新しい社会基盤として注目されるメタバースはどうか。
哲学研究者の戸谷洋志 (とや・ひろし) は「メタバースとニヒリズム」 (『群像』4月号) で、メタバースが爆発的なイノベーションを起こすと期待され、将来的に100兆円を超えるビジネスチャンスを生むと予測されていると言及。
「私たちは、メタバースによってもたらされるどんな未来を望み、またなぜそれを望んでいるのだろうか」と問う。
メタバースの出現とその受容は「現実の世界を体験することが、人間にとっての根源的な幸福である」と考える人々の前提を揺さぶる。
そして、現実の世界に幸福を感じる人々が、実は恵まれた境遇の少数派であり、大多数の人々が「現実がもたらす過酷な苦境に苛 (さいな) まれながら」生きている可能性を突き付ける。
であるならば、性別や国籍、周辺環境や身体そのものの制約からある程度離脱可能なメタバースという空間は、辛い現実を生きる人々にとっての福音かもしれない。
AIとともにメタバースもまた、人間やこの社会の本質を映し出す鏡なのだろう。
いずれにせよ、テクノロジーの進歩により問われているのは、私たち自身なのだ。
(敬称略)
(2023年5月1日号掲載)