5/1/2023
ニューヨーク州の大陪審に起訴されたトランプ前大統領 (76) は、先月の罪状認否で全面的に無罪を主張した。
ニューヨーク州検察は、トランプ氏が2016年大統領選に勝利するため、現金をばらまく形で、不倫などの醜聞を公表前に潰 (つぶ) す隠蔽工作のスキームを運用していたとする資料を公表し、不正追及への強い姿勢を示した。
前大統領は2016年、不倫関係にあったと主張するポルノ女優に顧問弁護士を通じて払った口止め料13万ドル (約1,700万円) を分割で弁済する過程で、計34件の業務記録を改竄 (ざん) したとしてNY州法違反罪に問われた。
米メディアによると、この罪は単独では「軽罪」とされるが、別の犯罪を隠すなどの目的がある場合、最高刑は禁錮4年。
同州では、1年を超える禁錮刑が科される可能性がある罪は「重罪」と分類される。
隠そうとした意図を立証するハードルは高いとの見方もある。
NY州検察は選挙関連法などの違反を隠す目的があったと位置付けたが、具体的な内容には言及していない。
州検察が起訴内容とは別に公表した資料によると、醜聞潰しは複合企業トランプ・オーガニゼーションを使い行われた。
前大統領は2015年8月、顧問弁護士だったマイケル・コーエン氏とともに、タブロイド紙を発行するメディア企業の幹部らと協議し、自身に不利な情報を公表される前に見つけ出すことで合意した。
メディア企業は同年、「前大統領に婚外子がいた」との情報を売り込もうとしていたトランプタワーの元ドアマンに3万ドルを払って情報を買い取った。
2016年には不倫関係にあった元モデルの女性にも口止め料15万ドルを払った。
支払いはオーガニゼーションで「弁護士費用」として処理された。
前大統領は罪状認否後、フロリダ州の私邸に戻って演説し「こんなことが米国で起きるとは思いもしなかった」と検察を強く批判した。
現在は検察側、弁護側の双方が争点や証拠を整理する段階に入っている。
12月に見込まれる次回の対面審理に、前大統領の出廷が求められるかどうかは不透明だ。
明確な証拠、有罪の可能性・・・政党分極化、評価割れる
▪︎ ニューヨーク州立大オールバニ校のジュリー・ノフコフ教授 (公法学) の話:トランプ前大統領が最終的に有罪になる可能性は十分ある。
業務記録が改竄された明確な証拠があり、証人として、事件全体に関与した当時の顧問弁護士コーエン氏がいる。
大統領選で当選するために口止め料の支払いを指示したことを証明するのは難しくない。
前大統領はニューヨークで人気がなく、陪審との対面は緊張したはずだ。
確かに政治的な捜査だったし、アルビン・ブラッグ地方検事の知名度が上がるのは間違いないが、捜査自体は非合法ではない。
また、トランプ氏が有罪判決を受けても、憲法に大統領選の出馬を妨げる条項はない。
共和党では問題ばかり起こす前大統領がいなくなることを望む声がある一方、前大統領は強固な支持層を抱えており、どう対応するか難しいところだろう。
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▪︎ 津田塾大の西川賢 (にしかわ・まさる) 教授 (米国政治) の話:2024年大統領選に出馬表明したトランプ前大統領の起訴の評価は民主、共和両党で割れている。
民主党では多くが正当な司法手続きと見なし、不人気のバイデン大統領にとって好機だ。
ただ、民主党内にさえも政治的動機を疑う声がある。
同党左派が過剰に前大統領を攻撃すれば、かえって首を絞める可能性がある。
前大統領が2024年大統領選の共和党候補に決まれば、無党派層が共和党への投票をためらう一因になり得る。
起訴を受け、共和党内で前大統領に好意的な層は結束を強めるだろうが、他の候補を推す動きも加速しそうで、必ずしも前大統領の追い風になるとは思えない。
現在の米国では民主党と共和党が嫌悪し合い、互いの言動を否定する分極化傾向が強い。
共和党も将来的に司法を武器に報復に出るかもしれない。
再び、米国の民主主義の根幹を揺るがすような事態に発展しないか危惧 (きぐ) している。