2023年1月28日
バイデン政権は半導体装置の製造で世界をリードする日本、オランダを巻き込み、対中包囲網を強める意向だ。
米メディアなどは1月27日、3か国が先端半導体技術の対中輸出規制強化で合意に達したと報道。
ただ、中国は世界最大の半導体市場であり、米中貿易摩擦が激化して分断が進めば、日本企業などが中国市場を失うとの懸念も
ある。
対象となるのはコンピュータから人工知能 (AI) まで幅広い分野の基盤技術。
技術流出と軍事転用を防ぐ狙い。
中国の習近平指導部はオランダのASML、東京エレクトロンといった世界有数の製造装置メーカーに追い付くため、半導体製造
装置の自給化を進めており、中国主導の技術開発を遅らせる目的もある。
半導体はスマートフォンや自動車など広範囲のハイテク製品に使用されており、潜在需要は大きい。
世界半導体市場統計によると、中国の市場規模は日米の市場をはるかに凌ぐ。
中国にはアップルの人気スマホ、iPhone (アイフォーン) の世界最大の工場がある。
中国に製造拠点を置いて世界に輸出する日米欧の各企業にとって、米中分断は大きな経営リスクとなる。
米政権は昨年10月、半導体製造装置などの輸出制限や、米国人による技術協力を阻止する厳しい対中規制を発表。
日本やオランダに同様の規制を講じるよう協力を求めていた。
中国外務省の汪文斌 (おう・ぶんひん) 副報道局長は1月20日の記者会見で、米国が先端半導体の対中輸出規制で日本やオランダに協力を求めていることに反発。
「自国の長期的利益と国際社会の共通の利益に立脚し、正しい判断を下すよう望む」と日本などを牽 (けん) 制した。
汪氏は、米国は覇権を維持するために同盟国に経済的圧力を加え、中国企業の排除を進めていると非難。
日本やオランダは客観的で公正な立場を保つべきだと呼びかけた。
その上で「われわれは断固として正当な利益を守る」と強調した。
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◼︎ 解説:
日本政府は米国の要請に応じ、中国を念頭に置いた先端半導体の輸出規制に踏み切る。経済安全保障を重視したためだが、日中関係が悪化する恐れがある。米中対立に端を発した経済の分断は深まる一方で、自由貿易体制が揺らぐ事態となっている。
冷戦終結後は経済の相互依存が国際情勢に安定をもたらすとの考えが広まり、1995年に自由貿易を掲げる世界貿易機関 (WTO) が発足。日本の後押しもあり、中国は2001年に加盟を実現した。
日米などの期待に反し、中国は覇権主義的な動きを強めた。2010年には日本へのレアアース (希土類) 輸出を制限するなど、経済的手段で揺さぶりをかけハイテク分野で米国と対立した。
一方、中国を警戒する米国は昨年、インド太平洋経済枠組み (IPEF) を立ち上げ、日本などと共に対中包囲網の構築を急いでいる。そうした中でも、日本政府内には対中関係の悪化を懸念し輸出規制に慎重論があった。しかし、最終的に同盟国である米国の要請に同調した。
グローバル化が進んだ今、中国との完全な経済切り離し (デカップリング=decoupling) は起こり得ない。だが、日本の経済官庁幹部は「自由貿易体制が転機を迎えている」とし、通商政策を見直す動きが加速する可能性を示唆した。経済の分断がさらなる反発を招きかねない悪循環に陥っている。
(2023年2月16日号掲載)