2023年6月15日
米連邦準備制度理事会 (FRB) は政策金利を11会合ぶりに据え置いたが、年内にさらに2回の利上げを見込む。
高金利による副作用で景気後退の不安が渦巻く中、物価高は思うように収まらず、米国に限らず各国の中央銀行は対応に苦慮している。
大規模金融緩和を続ける日銀も政策修正の時期を探りかねている。
▽闘いは途上
「インフレの全データを見ると、この1年間はほとんど進展していない」。
ジェローム・パウエルFRB議長は6月14日の記者会見で物価高との闘いが途上だとの認識を繰り返し表明した。
5月の米消費者物価指数は前年同月に比べて4.0%上昇。
伸び率は11か月連続で縮小したもののFRBの目標の2%を上回っており、数字上は昨年3月から続けてきた利上げの効果が十分とは言いがたい。
記者からは「利上げが必要と言うなら、なぜ (今回) 見送るのか」との質問が出た。
パウエル氏は既に高水準にある金利に加え、3月以降に相次いだ銀行破綻の経済への影響を見極めるためと説明。
影響が定かでないなら、2回も利上げを見込める理由は見えず、やや苦しい回答だった。
▽手探り
手探りの政策運営を迫られているのは米国だけではない。
カナダ銀行は4月にインフレ率が鈍化したとして金利据え置きを決めた後、6月7日に3会合ぶりの利上げを発表。
オーストラリア準備銀行も4月に1年ぶりに金利を据え置いたが、5月からは利上げを再開し、物価の動向に振り回されている。
背景には高金利が景気後退につながる懸念が高まっていることがある。
企業や個人への貸出金利が上昇し、資金調達が難しくなるため経済活動が抑制される。
世界銀行は6月に公表した経済見通しで「世界的に金利上昇が継続する中で、世界の経済成長は急激に減速する」と指摘。
パンテオン・マクロエコノミクスのチーフエコノミスト、イアン・シェパードソン氏はFRBの政策について「(今後の) 2回の利上げは過剰で、あり得ない」との見方を示した。
▽副作用
日本でも各国と同じように物価上昇率が目標を上回る状況が続くが、日銀は需要の強さによるものではなく、資源高や円安による輸入品の価格高騰が主な要因だと分析。
植田和男 (うえだ・かずお) 総裁は「拙速な政策転換で、ようやく見えてきた2%達成の芽を摘んでしまうコストは極めて大きい」と指摘し、金融緩和で経済活動を下支えする構えだ。
ただ、財政規律の緩みなど緩和長期化の副作用が大きくなっているだけに「日銀の思惑とは別に、僅かな変化で修正期待が高まる」 (エコノミスト) 状況も想定される。
市場との対話を含め、政策運営の舵 (かじ) 取りは一段と難しくなりそうだ。
▽ジレンマ
FRBの通常の利上げ幅は0.25%で、予測通りの金利到達には残り2回の利上げが必要となる。
3月以降に相次いだ銀行破綻による金融不安で企業などへの融資縮小が続いており、追加の利上げが重なれば、大幅な経済悪化に陥って世界経済の下押し要因となる恐れがある。
パウエル議長は会合後の記者会見で、金利据え置きの理由を「金融引き締めの状況や、融資縮小による逆風などを考慮した」と説明。
過度な金融引き締めによる悪影響への警戒感を示した。
ただ、高止まりする物価上昇率を踏まえ「会合出席者のほぼ全員が、年末までに金利をいくらか引き上げることが適切であると予想している」とした。
景気悪化の可能性については「急激な景気後退や雇用の大幅な減少を招くことなく、物価上昇率を (目標の) 2%に戻す道があると考えている」と述べ、金融政策運営への自信を示した。
「年内の利下げが適切だとは全く思わない」とも述べ、市場の金融緩和に対する期待を牽 (けん) 制した。
(2023年7月1日号掲載)