Tuesday, 25 June 2024

自由の砦(とりで)に危うさ、指導力に膨らむ疑問 バイデン氏、就任後初の一般教書演説

2022年3月3日

「ここは民主主義の砦 (とりで) だ」。

バイデン大統領は3月1日、就任後初の一般教書演説の舞台となった連邦議会を全体主義やテロと戦う米国の「神聖なる場所」と表現した。

昨年1月の議会襲撃から米国が立ち直り、自由社会の指導的立場を取り戻したことを印象付ける狙いだ。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻を筆頭に内外で民主主義への脅威が増す中、バイデン氏の指導力への疑問は膨らみ、自由を守る砦は危うさを露呈している。

オバマ、トランプ両大統領のようなカリスマ性を欠くバイデン氏は、トランプ政治で揺らいだ民主主義の理念を追求することで求心力を得られるはずだった。

昨年1月の就任時、バイデン氏は「今日は民主主義の日だ」と宣言、大統領としての一歩を踏み出した。


現実は厳しい。

2020年大統領選の敗北を認めず「大規模な不正で選挙が盗まれた」と主張し続けるトランプ氏が共和党で影響力を保ち、分断修復は困難を極める。

新型コロナウイルス感染症が増幅させた社会不安を背景に、議会襲撃が象徴する政治的暴力を容認する世論が広がり、極右組織の台頭も目立つ。

一般教書演説で紹介されたブライヤー連邦最高裁判事は退任を表明した今年1月、「内戦」を語ったリンカーン大統領の言葉を引用しながら米国の現状に警鐘を鳴らした。


バイデン氏は中国やロシアを専制主義国家と位置づけ、厳しい姿勢で臨んできたが、ロシアのプーチン大統領は度重なる警告を無視して隣国ウクライナの主権を軍事力で踏みにじった。


中国は議会襲撃が「米国式民主主義の幻想を打ち砕いた」 (国営通信新華社) と批判。

米国が昨年12月に日本を含む約110か国・地域の首脳らを招いてオンラインで開いた「民主主義サミット」も一過性のイベントで終わった印象が残る。


専制主義や暴力主義は恐怖と利益を、民主主義は自由と理想を武器とする。

一般教書演説で「自由は常に勝利する」と指摘したように、普遍的価値で専制国家に打ち勝とうとするバイデン主義自体は間違ってはいない。

しかし、正しさの証明を漫然と待つ余裕は今の米国と世界にはない。


11月の中間選挙を控え、支持率低迷に苦しむバイデン政権は正念場だ。

約40年ぶりの高インフレ抑制雇用拡大など市民が実感しやすい政策で成果を挙げることが急務。

その先に政権基盤安定と理想の実現が待つだろう。


民主主義への脅威によって砦が崩れる事態は、米国とその影響を受ける世界のいずれにも望むべき未来をもたらさない。


*一般教書演説:英語では「State of the Union Address」。国の現状に関する演説という意味。米大統領が議会に対し、内政や外交全般にわたって向こう1年間の方針を表明する。憲法の規定に基づいて行われる。


*Picture:© Haditha26 / shutterstock.com


(2022年3月16日号掲載)