2023年8月4日
米連邦大陪審は8月1日、2021年の議会襲撃事件を煽 (あお) ったとして、トランプ前大統領を起訴した。不倫もみ消し問題と私邸への機密文書持ち出し事件に続く3度目の刑事訴追。
共和党は反発している。
米国の民主主義を揺るがせた襲撃事件で刑事責任が問われることになり、前大統領が出馬表明して
いる2024年大統領選への影響が注目される。
議会襲撃事件は2021年1月6日に発生。
2020年大統領選は「不正だった」とする前大統領の主張に基づき、支持者らが議会議事堂に乱入して選挙結果の認定手続きを阻止しようとした。
起訴状は「2020年大統領選で不正が行われたとの虚偽の主張を用い、選挙結果の承認手続きを妨害し、結果を覆そうとした」と指摘した。
前大統領は米国を欺こうと企てた罪や議会手続きを妨害した罪など4件の内容で起訴されたが、8月3日、ワシントンの連邦裁判所の罪状認否で全て無罪を主張した。
前大統領は主要候補が乱立する共和党の指名争いで先頭を走る。
バイデン民主党政権が司法を政治利用して「選挙を妨害している」と主張しており、支持者は結束を強めている。
一方、多くの醜聞を抱える前大統領を敬遠する有権者も多く、ライバル候補にとって新たな起訴は攻撃材料になりそうだ。
政権から独立して前大統領を捜査してきたスミス特別検察官は記者会見し、議会襲撃は「米国の民主主義に対する前代未聞の攻撃」だと指摘。
大統領選結果の承認を妨害しようとした前大統領が支持者を嘘 (うそ) で煽った結果だと批判した。
▪︎ 起訴内容: トランプ前大統領の起訴内容のポイントは次の通り。
・2020年大統領選の結果を認定する連邦政府の機能を弱め、米国を欺こうと企てた。
・選挙結果の認定手続きを妨害した。
・認定手続きを妨害するため他者と共謀した。
・憲法で保障された権利を行使しようとする個人を傷つけたり、脅したりして選挙権を侵害した。
▪︎ スティーブン・サルツバーグ ジョージワシントン大教授 (法学) の話:米国の刑法史上、最も重大な起訴の一つとして語り継がれるだろう。大統領選の結果を覆そうとし、平和的な権力移行を放棄した人を起訴した例は過去にない。2021年1月6日に暴力や破壊行為を実行した人だけでなく、それを嗾 (けしか) けた人を起訴したことになる。トランプ前大統領が行ったことを正確に把握するには多くの証言が必要で、起訴は複雑かつ困難だった。前大統領が2024年大統領選に立候補することを決めたからといって責任を免れるわけではない。これまで起訴される度に共和党支持層の間では前大統領の支持率が上がった。今回もまた上がるかもしれないが、民主党候補と対決する本選でどのようになるかは分からない。
▪︎ 前嶋和弘 (まえしま・かずひろ) 上智大教授 (米現代政治) の話:これほど重い起訴はない。だが、政治的分極化が進む米国において、トランプ前大統領の支持者はそもそも、前大統領は正しいことをしたと思っている。過去2度の起訴と同じように、民主党が司法を武器に共和党を追い込もうとしているとみるだろう。2024年大統領選の共和党候補指名争いで前大統領の支持率はこれ以上、上がりようがないほど高いが、支持は一層固まって献金も増えるだろう。結果的に起訴が選挙戦略の一部になってしまっている。「トランプ党」と言えるほど支持者が多い共和党において、前大統領への非難は票を減らすことになる。今回の起訴を受けても他の共和党候補は一部を除き、前大統領批判に転じることはないだろう。
(2023年8月16日号掲載)