2022年6月26日
連邦最高裁は6月24日、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェード」判決を覆す判断を示した。全米50州のうち、保守派が優勢な約半数の州で中絶が厳しく制限される可能性がある。
バイデン大統領はホワイトハウスで演説し、半世紀にわたり維持されてきた「米国民の憲法上の権利を奪った」と非難。
判断は「悲劇的な間違い」であり、「女性の体と命が危険に晒 (さら) されている」と懸念を示した。
リベラル派は女性の権利が後退すると反発し、米各地で抗議デモが起きた。
各国首脳や国連なども懸念を表明し、国外にも波紋が広がった。
今回の訴訟では、妊娠15週より後の中絶を原則禁じる南部ミシシッピ州法の合憲性を認めた。
最高裁の多数派意見を代表した保守派アリート判事は、中絶の権利が憲法に明記されていないと指摘。
胎児が子宮外で生存可能になるとされる24週ごろより前の中絶を禁止できないとしたロー対ウェード判決は「根拠が薄弱で、最初から著しく間違っていた」と批判した。
最高裁判事9人のうち判断に賛成したのは保守派5人。
リベラル派3人は反対を表明した。
保守派のロバーツ最高裁長官はミシシッピ州法の合憲性は認めつつ、判決を覆す必要はないとの考えを示した。
最高裁判事は終身制で、トランプ前大統領が保守派3人を送り込み、保守化が進んだ。
ロー対ウェード判決はプライバシー権の一環として中絶の権利を認めていた。
保守派トーマス判事は24日の意見で、同じ論理で同性婚などを憲法上の権利と認めてきた判決についても「再考するべき」と言及した。
アメリカン大 (American University) のジェシカ・ウォーターズ学士教育部長は「今回の最高裁判断は、他の判決も依拠するプライバシー権を弱体化させた。様々な権利を揺るがすものだ」と解説した。
日本では「身体的、経済的理由で母体の健康を著しく害する恐れ」などがある場合に、妊娠22週未満に限り、中絶することを認めている。
*写真下左:連邦最高裁に向かって人工妊娠中絶権利の保護を叫ぶ「プロチョイス」支持者 (ワシントンDC)
*写真下右:人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の最高裁判決に抗議する「プロライフ」支持者 (ロサンゼルス)
中間選挙争点に中絶権利、民主党支持見通せず
バイデン大統領は6月24日、連邦最高裁が人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めない判断を示したことを受け、連邦議会で中絶の権利を法制化する必要があると訴えた。
民主党の苦戦が予想される11月の中間選挙で中絶問題を争点化して反転攻勢につなげたい考えだが、どこまで支持を拡大できるかは不透明だ。
バイデン氏はホワイトハウスの演説で「最高裁の多数派が、いかに米国の多数派意見と懸け離れているかを示している」と強調し、最高裁を批判。
その上で「この判断で終わりではない。1票で議会を動かそう」と述べ、中絶の権利を擁護する候補を上下両院で当選させるよう訴えた。
1973年の「ロー対ウェード」判決を覆した最高裁の多数派意見で、保守派アリート判事は「中絶を規制する権限は、国民と議員の手に委ねられるべき」と指摘。
憲法に明記されていない中絶の是非は、司法ではなく議会が決めるとの考えを示した。
ただ、上院 (定数100) での法案可決には60人の賛成票が必要。
記録的なインフレで政権支持率が低迷する中、現有50議席の民主党勢力が中間選挙で10議席以上積み増すのは困難だ。
下院でも過半数維持に悲観的な見方がある。
(2022年7月16日号掲載)