Thursday, 21 November 2024

黒人差別との闘い今も 分断拡大、逆行に懸念

2023年8月29日

米黒人公民権運動の指導者キング牧師が「私には夢がある」と人種間の融和を訴えた1963年ワシントン大行進から8月28日で60年となった。

8月26日には首都で記念イベントを開催。

人種隔離政策は撤廃され、黒人の社会進出は進んだが、社会の分断は深まり逆行を懸念する声も
上がる。

綿々と残る差別との闘いは今も続く。


素地

「60年前、黒人が大統領や副大統領になると言ったら冗談としか思われなかった」。

大行進の企画に携わった黒人活動家コートランド・コックスさん (82) はこう振り返った。


当時は黒人が投票から排除され、米政府に声を届ける権利すら否定されていた。

大行進は当初想定した10万人から約25万人に膨れ上がり、キング牧師の演説で最高潮に達した。


大きなうねりとなって翌年に差別を是正する公民権法が成立。

数十年後、黒人のオバマ大統領が就任する素地となった。


大乱闘

南部でかつて頻発した白人による黒人のリンチ殺害事件などはなくなったが、差別から生じる暴力は歴然と残る。


南部アラバマ州モントゴメリーの川辺で8月5日、白人の男が黒人作業員を殴りつけた後、白人と黒人の一団が人種で分かれて大乱闘に発展した。

モントゴメリーは皮肉にもキング牧師がバス乗車を拒否して抗議する「バスボイコット運動を主導した場所だった。


白人警察による黒人への過剰な実力行使も絶えず、人種差別に抗議する「ブラックライブズマター (Black Lives Matter)」のデモは続く。



反動

人種融和への反動も目立つ。

トランプ前大統領は白人至上主義者の暴力を非難しなかったことで、助長したとされる。

人種間の経済格差も大きいままだ。

コックスさんは差別を看過した過去への揺り戻しを警戒する。


ピュー・リサーチ・センター (Pew Research Center) が8月10日に発表した世論調査によると、黒人の成人の83%がこの60年間で人種間の平等に向けた取り組みは十分に成功していないと回答した。


 トランプ政権下で保守化した連邦最高裁は大学入学選考で黒人らを優遇する積極的差別是正措置アファーマティブアクション (Affirmative Action)」を違憲と判断した。

恩恵を受けたミシェル・オバマ元大統領夫人は「胸が張り裂けそう」と嘆いた。


コックスさんはトランプ氏を熱烈に支持する勢力「マガ (MAGA=Make America Great Again)」に触れながら「多様性ある社会を目指す取り組みは抵抗を受けている。

闘い続けなければならない」と力を込めた。



バイデン大統領多様性こそが米国の力」、キング牧師演説から60年

8/29/2023

バイデン大統領は、米公民権運動の黒人指導者マーチン・ルーサー・キング牧師が1963年のワシントン大行進で行った歴史的演説から60周年を迎えた日に、ホワイトハウスで記念行事を開催した。

多様性こそが米国の力であり、民主主義の土台だ」と述べ、牧師が願った人種間融和に向けた取り組みを続けなければならないと訴えた。


フロリダ州で8月26日に白人の男が黒人3人を殺害した銃撃事件について、憎悪犯罪 (ヘイトクライム) であり「白人至上主義は害悪だ」と非難した。

来年の大統領選で再選を目指す民主党のバイデン氏は、差別に反対する姿勢をアピールして黒人票の取り込みを進める。


大統領選で共和党の候補指名を争うフロリダ州のデサンティス知事は、奴隷制で黒人が技術を習得し、利益も得ていたとする歴史教育を擁護している。

バイデン氏はこれを念頭に、差別の歴史が「消されようとしている」と問題視し、国民は声を上げるよう求めた。


「人は生まれながらに平等である」という米国の基本理念がまだ十分に実現できていないと認める一方で「背を向けることはない」と強調し、差別をなくす政策を続けると約束した。


演説に先立ちバイデン氏は、キング牧師の長男で市民団体を率いるキング3世や黒人の活動家シャープトン師らと会談した。



*Picture:© Grindstone Media Group / shutterstock.com



(2023年9月16日号掲載)