Thursday, 28 March 2024

感情的な推論(2021.1.16)

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    美甘 章子

臨床心理医。医療や教育現場て幅広く臨床経験を積み、みなと学園コンサルタントも務めた。

エグゼクティブ・コーチング、スポーツ心理、精神科薬相談、心理療法、精神鑑定、教育心理アセスメント、発達障害相談など日・欧・北中南米などグローバルに従事。

「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」著者。

平和教育団体San Diego-WISH代表。


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感情的な推論

       
       
私たちの思考と感情のプロセスの中には、性格や過去の経験などからの癖で非論理的な弯曲が入っていたりすることがあります。

認知行動療法では、それらの思考の歪みのパターンから出てくる感情や、その感情に基づいた行動様式や、さらなる思考の展開に気づいて、現実と照らし合わせて吟味することにより、気持ちが落ち着いたり、希望が出たりする過程をサポートしていくことがあります。



思考の歪みのパターン


歪んだ思考パターンは大きく分けて10〜15種類程度あります。

よくあるのは、二分法的思考と呼ばれるもので、「白か黒か」または「1か100か」と極端に考えるパターンです。


日常生活の例を挙げると、誰かに嫌なことを言われたりした時に「この人は最悪な人だ」とか「私は誰にも好かれない」と感じることは、これに当てはまります。

「最悪な人」と出会うことは、現実には滅多にないことで、「(他の人に)好かれない」と感じられる出来事が最近重ねてあったかもしれないけれど、そうではない普通の出来事や喜ばしいことも幾らかはあるはずなのですが、思考プロセスの中でそのような普通の出来事や喜ばしいことは篩(ふるい)に掛けて無意識のうちに押し出してしまい、残っている残念なことや悔しいことや困ることだけが印象に残って、あたかも「私は誰にも好かれない」と感じてしまうのです。


他にもよくある思考パターンの歪みはありますが、今回は「感情的な推論」に関して少し詳しく述べます。



感情的な推論の例


感情的な推論とは、「私はこう感じているのだから、事実はこうに違いない」と無意識のうちに推論して事実だと信じ込むことです。これは、人間関係に関する思考パターンの中で発生することが多い思考パターンの歪みです。


例えば、上司が部下に対して侮辱された気分、または尊敬されていない気分になった時に、「この部下は自分を馬鹿にしている」または「甘くみている」とほぼ確信してしまうかもしれません。

多くの場合、私たちはそのような感情が先に出ていて思考が後を追っていることに気づかず、頭の中では一生懸命「馬鹿にされている」証拠や根拠を探したり握りしめたりしています。


もちろん、これが事実であることもあり得ますが、部下の行動を上司が自分の思い込みや過去の経験へのリアクションから「仕事をきちんと締め切りまでに済ませないのは、自分を軽くみているからだ(または侮辱しているからだ)」と決定事項として解釈してしまっていることもあります。


もっと親密な関係の例を挙げると、親子やカップルの関係の中で、「この人(この子)は私を大事に思ってくれていない(ありがたく思っていない)」とほぼ確信したり「私のことを大事にして思ってくれているなら、こんなこと出来ないでしょう(言わないでしょう)」と相手を責めたりすることなどが当てはまります。


この場合、この相手の言動に対して「傷ついた」「はがゆい」「腹が立つ」「無視された気がする」「蔑ろにされているような気分」「理解されていない気分」「感謝されていない気分」などが先立つのですが、その自分の気分にはあまり気を止めず、(このような気分になるのは)「相手の愛情が足りないから」「普段から自分のする親切やケアを当たり前だと思っているから」「相手が頑固だから」とまるで証拠が揃っているかのように相手の誠実さや愛情を疑ったり、それが欠けていると確信したりしてしまい、「どうしていつもわかってくれないのか?」とか「あなたが〇〇をしないのは、私に対する思いやりや感謝が足りないからでしょう」と強く相手を責めたりしてしまうのです。


ここで非常にリスクが大きいのは、このような感情的推論をしてしまうと、自分では気づいていないので、相手が反論したり「誤解だ」と言っても、いかに自分の論理が正しいかに焦点を置いてしまって、自分の感情そのものを見つめ返すよりも、自分の主張が正しいことを相手に判らせようと懸命になってしまい、責めるような口調や同じことを繰り返して言い続けたり、自分が正しいという証拠を探して提示することのみに専念してしまうことです。


強い感情を持ちやすい人には、特にこの傾向があるかもしれません。

相手を疑ったり責めたりする前に、まず自分の感情を見つめて冷静に自分の感情や懸念点を伝えて、相手の見解や理由にしっかり耳を傾けてみる余裕を自分に与えると、違う解釈や理解が出来て問題解決に繋がりやすいということを念頭においてみてください。
 
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「心の健康ノート」シリーズでは、主な心の病気やストレスの表れ方、心理療法、精神科薬、人との接し方、家族関係、職場でのメンタルヘルス等について、心と体の健康のために、ぜひ皆さんに正しく理解して頂きたいことを紹介していきたいと思います。
 
 
(2021年1月16日号掲載)