Monday, 14 October 2024

注意欠如・多動症(ADHD)(2022.1.16)

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    美甘 章子

臨床心理医。医療や教育現場て幅広く臨床経験を積み、みなと学園コンサルタントも務めた。

エグゼクティブ・コーチング、スポーツ心理、精神科薬相談、心理療法、精神鑑定、教育心理アセスメント、発達障害相談など日・欧・北中南米などグローバルに従事。

「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」著者。

平和教育団体San Diego-WISH代表。


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注意欠如・多動症(ADHD)

       
       

ADDやADHD(注意欠如・多動症)が一般の日本人にも聞き覚えのある言葉になってから久しくなりました。

しかし、ネット上などに日本語の情報も溢れているとは言え、まだまだ正しく理解している人は少ないように思えます。

ADHDとは?

ここでは、詳しい診断基準になる症状の一つ一つは挙げませんが、不注意の症状(学業や仕事で細部を見落とす、指示に従えない、物をよく失くすなど)が6つ以上あるか、多動性および衝動性の症状(じっとしていない、聞き終わる前に答える、順番が待てないなど)が6つ以上あり、それらは12歳になる前に発現していて6か月以上続いており、少なくとも2つ以上の環境(学校と家庭や、地域、友人や親戚といる時など)において存在しており、その症状がうつ病や不安障害など他の精神科疾患ではうまく説明できない場合にADHDが疑われます。

が、確定診断には、専門医の詳しい診察や検査が必要で、チェックリストに当てはまるからといって即ADHDとは限りません。

ADHDについてのよくある誤解

1. 「この子はチョロチョロしないから、ADHDではない。」

ADHDは、注意欠如(Attention Deficit: AD)が主な症状の場合と、多動性・衝動性(Hyperactivity: H)が主な症状の場合と両方の場合があるので、じっと大人しくしている子やティーンがADHDを持っていないとは限りません。

 

2. 「ぼーっとして集中できないからADHDなのではないか」

集中できない理由は、うつ状態や不安の状態や、興味の問題、他に気になることがあるなど様々です。ですから、集中してないように見える子や人がADHDとは限りません。

 

3. 「ADHDの子や人は、注意が払えず、集中できない。」

病名に注意欠如(Attention Deficit: AD)とついていますが、必ずしも注意が払えず集中できないわけではないのです。例えば、ゲームや自分の興味のある活動に関しては、驚くほど注意を払い集中力が続くことがあります。


脳神経生理学的にみたADHD

脳神経生理学的にみると、ADHDは注意が払えない、または集中できない、じっとしていられない疾患ではなく、前頭葉を中心とした神経の回路で「抑制」の機能を果たしている神経伝達物質の不活性などにより、注意を抑制することが苦手なため、色々な些細なことに注意があちこちとられて大事なこと(または、注意を払いなさいと言われていること)に注意が払えなかったり、そちらに注意を向けられない(他のことへの注意から転換することができない)疾患です。

例えば、カクテルパーティーなどで、多くの大人は自分が話している相手やそのグループの会話に注意を払って、周りの声や背景の音楽や雑音への注意レベルを下げて、ある意味ボリューム調整を脳の中で行っているから会話に集中できるのですが、これができなくて、周りの音楽や雑音や他のグループの対話や、光や色や形や様々な人の動きが全部気になってしまうことを想像してください。

その場合は、相手との会話に集中することが難しく、あっちを見たりこっちを見たりして「落ち着きのない人」と見られるかもしれませんし、全て気になる音やビジュアルをチューンアウトしておかないとやってられないので、相手が話していることもよく脳内に入っておらず、「ぼーっとしている人」と思われるかもしれません。

ADHDの治療法

1. 精神科薬

日本で処方されるADHDの薬は非常に限られていて、現在コンサータ、ビバンセ、ストラテラ、インチュニブしかありません。

アメリカでは、コンサータとビバンセ(アメリカでは商品名Vyvanse“ヴァイヴァンス”です)にそれぞれ構造や働きが似た種類の薬が何種類かずつあり、インチュニブ(商品名Intuniv、一般名guanfacine)は元々血圧の薬なので、他の種類の血圧の薬(一般名clonidineクロニディンなど)が使われることもあります。

詳しい診察と検査の結果をもとにADHDが診断された場合は、その患者さんに合った精神科薬治療計画を詳しく立て、そのプログレスをモニターしながら調整していく必要があります。

似たような症状の患者さんでも同じ薬が同じように効くとは限らないからです。

 

2. 認知行動療法、教育療法、ソーシャルスキルやコミュニケーショントレーニング、親の教育とトレーニングなど

治療において非常に大切なことは、薬だけでは治療効果は限られているということで、最適な治療は薬とセラピーやトレーニングを組み合わせて、その子やティーンや大人自身が自分のADHDの特徴を踏まえた上で、学業や業務に支障をきたさないように自分に合った様々なストラテジーの使い方を学び、そしてその親や近親者が患者の適応行動を促すような働きかけができるようにしていくことが必須です。

 
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「心の健康ノート」シリーズでは、主な心の病気やストレスの表れ方、心理療法、精神科薬、人との接し方、家族関係、職場でのメンタルヘルス等について、心と体の健康のために、ぜひ皆さんに正しく理解して頂きたいことを紹介していきたいと思います。
 
 
(2022年1月16日号掲載)