ビザの選択 (2016.9.16)
15 September 2016
Last Updated: 20 October 2020
石鍋 賢子
米国カリフォルニア州弁護士
上智大学外国語学部英語学科出身。ビジネス系の移民法専門弁護士として20 年の経験を持つ。グレイ・ケリー・ウェア&フリーデンリッチ、ララビー&アソシエーツ等法律事務所勤務を経て、独立し、事務所設立。 米国弁護士会(ABA)、サンディエゴ弁護士会(SDCBA), 米国移民法弁護士会(AILA) 会員。サンディエゴ在住19 年。
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ビザの選択
Q 現在の駐在員の交替のため、本社からマネージャーを1人呼びたいと思っています。
最近、ビザを取るのが難しいと聞くのですが、アドバイスをお願いします。
A 「最近ビザを取るのが難しい」 というのは大変一般的な表現で、気が付けば20年前からずっと言われており、20年間も「ずっと難しく」なり続けたらどんなに大変なことか、と逆に失笑しますが、一方、移民局のフォームは枚数が増える一方ですし、法律としては変わらないところも多々ありますが、いろいろな面で確かに「難しく」なっているのかもしれません。
さて、ご質問に関して、日本人の駐在員というシナリオでは、通常LビザもしくはEビザが申請されていると思われます。
いずれも長短あります。
Eビザ長所:米国法人がマキラドーラ形態でない場合、企業登録がされている企業であれば、後任者の申請は比較的スムーズかもしれず、大使館へ直接予約を取れるので、取得までの時間も比較的短くてすむ。
Eビザ短所:米国法人がEビザに関する協定の対象国 (例えば日本) に関連する企業で、ビザ申請者も同一国籍 (例えば日本人)でなければならない、現在有効なEビザ保持者がいなければ企業登録が必要で、6〜8週間程度かかる。大使館、領事館がマキラドーラの企業に懐疑的な印象。一方、Lビザの場合、厳密には、ビザ手続きの前に移民局から請願の承認を得る必要があり、焦点はいかにこのステップをクリアできるかにある。
L-1長所 : Eビザのように、大使館の「裁量」に左右されることなく、移民法の理論が適用される。必要に応じてプレミアムプロセス(追加申請料$1,225) の利用が可能(約2週間で審査)。ただし結果の保証ではない。
L-1短所:プレミアムプロセスを申し立てると、逆に余計な質問をされるという見方をする人も。また、移民法の保護があるとはいえ、経験上、移民局審査官はそれなりの偏見を持つため、それがマイナスに影響する場合あり。例えば、小企業(米国法人)には否定的で、米国法人の社員数が少ないと、マネージャーとは名ばかりではないかと疑われる。米国法人の存在感、実際の実質的な企業活動も審査される。海外での勤務経験が日本ではなく一部の別の外国の場合、信憑 (ぴょう) 性が問われることも。プレミアムプロセスを行わず、通常審査を申請すれば、審査に約2か月かかり、それでも追加質問が出されることも。返答して承認されればいいですが、それが通らなければ、3〜4か月かけて結局承認が得られない —— ということに。
さて、それではどうすればよいかというと、残念ながら明確な答えはなく、まさにケースバイケースの判断が必要です。
企業によっては、アメリカビザ取得を断念し、初めからメキシコ赴任に切り替えるという選択をするところも ——。
いずれの場合も、初回の却下により門戸が閉ざされるわけではなく、他方のビザ(または請願) で申請してみるとか、場合によっては職務その他の状況を変えて、同じタイプで再度申請することも可能です。
一つ注意していただきたい点は、L-1 「請願」の却下は入国拒否には当たりませんが、Eビザの申請が通らないと「ビザ申請の却下」 に当たるため、ご本人はESTAの対象外となり、 今後、ビザ免除制度での観光・商用短期滞在ができなくなります。
ですが、アメリカへ入国できなくなるのではなく、ビザ免除が使えないだけですので、一手間かかりますが、観光・商用短期滞在用の「B-1・2」のビザを大使館・領事館で発給してもらえば渡米が可能です。(この場合、ビザ免除での滞在期間が90日に限られているのに対し、Bビザでの滞在期間は6か月というメリットもあります)
この記事は、参考として一般的な概要をお伝えすることを目的としたものであり、個々のケースに対する法律のアドバイスではありません。
(2016年9月16日号掲載)