曽 碧光
米国中医薬研究所所長
1932年台湾に生まれる。
東京大学農芸化学修士、米国カンサス大学微生物学修士、東京大学薬学博士、 元米国コネチカット大学病理学助教授、第1 回世界中西医結合大会審査委員、セント・エリザベス病院 (ボストン) 筋ジストロフィー主任研究員、ドライ・アイ眼科研究所生化学顧問、元米国漢方研究所所長、現米国中医薬研究所所長。
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桂枝茯苓丸と婦人科疾患 | |||
Q : 桂枝茯苓丸はどうしてよく婦人科疾患に使われているのか、その理由をお教え下さい。
A : 桂枝茯苓丸は漢方医学のバイブルとも言われている『金匱要略』に記載されており、桂枝、茯苓、牡丹皮、桃仁、芍薬の5つの生薬から構成されています。 桂枝茯苓丸は瘀血による諸症に用いると漢方書に書かれています。 瘀血という概念は漢方医学独特のもので、 「瘀」 は瘀滞 (流れが滞る) の意味であることから、停滞する血液を意味します。 漢方医学では瘀血は疾病のもとであると考えられています。 多くの婦人科疾患は瘀血によるものと考えられているので、 「活血化瘀」という医療方法が取られています。 「活血」は血液循環を活発にし「化瘀」は瘀血を取り除くことを意味しています。日本では活血化瘀的漢方を駆瘀血剤的漢方と呼んでいます。 従って、婦人科疾患に駆瘀血剤的漢方である桂枝茯苓丸がよく使われているわけです。 以下に婦人科疾患のいくつかの例を取り挙げて説明していきたいと思います。 ① 更年期障害(血の道症) : 更年期障害は古くから血の道症と呼ばれ、治療に駆瘀血剤的漢方の桂枝茯苓丸と当帰芍薬散がよく使われてきました。1976年に当時の厚生省が漢方を健康保険薬と認可したので、漢方を西洋医学的観点から研究するようになり、桂枝茯苓丸と当帰芍薬散が更年期障害に効くのは、この両漢方にエストロゲン効果があるからだと立証されました。これは更年期障害がエストロゲンという女性ホルモン分泌の減少によるからです。エストロゲンは乳がんなどを起こす副作用があるので、更年期障害治療に使う人がいなくなりました。 ② 冷え性 : 冷え性は主に末梢の血液循環の悪化が原因とされているので、漢方治療に血のめぐりを良くする漢方である桂枝茯苓丸と当帰芍薬散がよく使われています。 ③ 不妊症 : 不妊症の漢方療法での成功例の65%以上は桂枝茯苓丸と当帰芍薬散によるものと報告されています。それは桂枝茯苓丸と当帰芍薬散に中枢作用、特に性腺刺激ホルモン分泌系への促進作用並びに卵巣機能改善作用などがあるからです。当帰芍薬散に不妊の原因になる血中プロラクチン濃度を低下させる効果があることも、妊娠成功率を高める原因の一つです。 ④ 月経不順 : 桂枝茯苓丸と当帰芍薬散には血のめぐりを良くし、ホルモンのバランスを調整する効果があるので、月経不順によく使われています。月経不順は骨粗鬆症のもとになるので、早く治すことが肝心です。 |
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(2013年3月1日号掲載) |