2023年8月26日
米連邦準備制度理事会 (FRB) のパウエル議長 (*写真) は8月25日、経済指標次第では追加利上げに踏み切る姿勢を改めて強調した。
金融引き締めに積極的な「タカ派」姿勢を堅持することで、市場の利上げ局面終了への期待を牽制した形だ。
ただ、世界に目を向けると、中国の景気回復遅れなど懸念材料は山積している。
世界経済に影響を与える米金融政策の行方に一段と注目が高まる。
メッセージ
「物価上昇率がピークから下がったことは歓迎するが、まだ高すぎる」。
パウエル氏はワイオミング州でのジャクソンホール会合で、こう強調した。
ジャクソンホール会合はこれまでもFRB議長が重要な発言をしており、講演は市場へのメッセージだ。
金融市場では「米国の政策金利は十分に高く、経済に打撃となる利上げは打ち止めだ」との期待がある。
FRBが警戒してきた食品とエネルギーを除く物価上昇率が、前月比で縮小傾向にあるためだ。
しかし、パウエル氏は「物価上昇が低水準のままかどうかは分からない」と楽観論を諌 (いさ) めた。
アメリカン・エンタープライズ研究所 (American Enterprise Institute=AEI) のスタン・ボーガー上席研究員はパウエル氏は「利上げによる景気後退よりも、物価上昇を懸念しているようだ」と分析。
「9月ではないが、11月には利上げがあるかもしれない」との見方を示した。
ピーターソン国際経済研究所 (Peterson Institute for International Economics=PIIE) のジョセフ・ギャニオン上席研究員も「データ次第だが、来年初めまでに2~3回の利上げの可能性がある」とした。
円安進行も
利上げは米国だけでなく、欧州でも進む。
欧州中央銀行 (ECB) のラガルド総裁は8月25日の講演で「インフレとの戦いにまだ勝っていない」と述べ、金融引き締めの必要性を強調。
各国が次々と利上げしていることで、国際通貨基金 (IMF) などは発展途上国や新興国からの米欧への資金流出など、世界経済への悪影響を懸念する。
中国は新型コロナウイルス禍からの景気回復が遅れ、不動産市場の問題も深刻化している。
中国経済への不安は高まり、世界経済への波及も危惧される。
米中の対立激化で進む経済の分断も足かせとなる。
大規模金融緩和を続ける日本にとっては為替への影響も大きい。
ドル円相場は日米の金利差が拡大していることで、円安傾向が続いている。
パウエル議長が講演した8月25日には一時、9か月半ぶりとなる1ドル=146円64銭を付けた。
レイバーデー (労働者の日) 連休明け9月5日のニューヨーク外国為替市場の円相場は対ドルで急落し、一時1ドル=147円80銭と昨年11月上旬以来、約10か月ぶりの円安ドル高水準となった。
FRBが実際に利上げに踏み切れば、輸入物価の上昇につながる円安が一段と進む可能性がある。
日本経済の先行きは、世界経済の懸念材料とともに不透明感が強まっている。
* 連邦公開市場委員会 (FOMC):米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会 (FRB) が
開く金融政策を決める会合。英語表記は 「Federal Open Market Committee」 で、略称は
その頭文字。定例会合は年8 回開催し、経済情勢や市場動向を議論する。FRB の正副議
長と理事、地区の連邦準備銀行総裁の投票で政策を決定する。
*Picture:© Domenico Fornas / shutterstock.com
(2023年9月16日号掲載)