2023年7月1日
連邦最高裁は6月29日、ハーバード大などの入学選考で黒人や中南米系を優遇する積極的差別是正措置 (アファーマティブ・アクション) は、憲法が定める「法の下の平等」に反し、違憲だと判断した。
公民権運動が高まった1960年代に多様性を確保するため導入された差別是正の措置が制限される。
米メディアによると、最高裁は1978年に合憲としていた。
他の大学も選考方法の見直しを迫られるほか、同様の措置は政府や企業が職員を雇用する際に取り
入れており、影響が広がりそうだ。
バイデン大統領は「数十年続いてきた判例を覆した。
強く反対する」と演説し、教育省に対応措置を取るよう命じた。
訴訟の対象になったのはハーバード大とノースカロライナ大。
選考で不利になっているとしてアジア系が不満を抱え、保守系の学生団体が「差別だ」と訴えていた。
提訴した学生団体は私立のハーバード大について、連邦政府の資金支援を受けながらアジア系の出願者を差別し、公民権法に反すると主張。
公立のノースカロライナ大に関しては憲法に反すると訴えていた。
違憲判断は、最高裁の9人の判事のうちジョン・ロバーツ長官ら保守派6人による多数派意見だった。
ロバーツ長官は大学が「能力ではなく、肌の色が基準になるとの誤った結論を下してきた。
憲法はそのような選択を容認しない」と指摘。
リベラル派のソニア・ソトマイヨール判事は「長年の判例と大きな進展を後退させることになる」と懸念を示した。
アファーマティブ・アクションは人種差別に苦しんだ黒人や中南米系の社会進出を促すために導入された。
ハーバード大は声明を発表し、最高裁判断に従うとする一方で「不可欠の価値観」である多様性を守るために取り組むと表明した。
最高裁は保守化が進んでおり、昨年6月には約半世紀ぶりに人工妊娠中絶の憲法上の権利を否定する判決を出している。
ボストンの連邦高裁は2020年、ハーバード大の措置は限定的に運用されているとして学生団体の訴えを退けた。
学生団体は同様に下級審で敗訴したノースカロライナ大の訴訟と合わせて最高裁に上告していた。
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▪︎ 積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション):米国で歴史的に差別を受けてきた少数派が教育や就業で均等な機会を得られるようにする措置。1961年のケネディ大統領による大統領令で連邦政府が差別是正への積極的な行動を取ると表明。1964年の公民権法が雇用主に是正措置を取るよう命じ、入学選考や雇用に関して、一定の比率で少数派の枠を設けるなどの取り組みが続いてきた。黒人の地位向上や多様性確保につながると評価された一方、「不公平」だとの声も根強かった。
(2023年7月16日号掲載)