5/5/2024
11月の大統領選で、農産物の輸出増に有益な政策が見えず、農業票が行き場を失っている。
バイデン大統領は貿易拡大につながる通商協定の締結には及び腰で、農家の失望を買う一方、対抗馬のトランプ前大統領も貿易拡大よりも国内保護の立場で内向き志向が強く、決め手に欠いている。
▽浮揚策なし
「バイデン氏が大統領になってから3年間、農業経営の浮揚策は何もなかった」。
与党民主党が強いとされ、牛肉輸出で全米上位に入る西部コロラド州の農業団体でトップを務めるカーライル・クーリエさん (69) は、人口200人に満たない同州西部の町モリーナに広がる農場を見つめながら溜め息をついた。
農産品の輸出大国である米国にとって、通商協定締結で相手国が輸入関税を引き下げれば市場拡大が期待できる。
ただ、バイデン氏が看板政策として掲げるインフラへの投資や気候変動対策と比べ、通商協定の議論は盛り上がりを欠く。
工業分野などで米国への輸入が増え「協定は雇用を奪う」との懸念が議会に根強いためだ。
クーリエさんは2,500エーカー (約1,000ヘクタール) の広大な農場で肉用牛を500頭飼育。
輸出増は牛肉価格の上昇につながり、通商協定への関心は高い。
2021年以降の牛肉輸出額は堅調に推移するものの、バイデン政権について問うと「化石燃料の使用に厳しい。
環境対応が変わった」と、批判的な意見が口をついた。
▽違う人物
近郊の町エカートの農家ヒュー・サンドバーグさん (63) も「大きな輸出市場について変化はない」と指摘。
政権は新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み (IPEF)」を推進してきたが、貿易拡大につながる関税削減を含まず「ほとんど知らない」と話した。
トランプ氏については、環太平洋連携協定 (TPP) から離脱した判断は「間違いだった」とするが、在任中に日本や韓国などと通商協定を結んだと評価し「バイデンよりも良い仕事をしたと思う」と話した。
しかし、2人とも大統領選でトランプ氏に投票するとまでは決め切れていない。
サンドバーグさんは、トランプ氏の主張に貿易拡大がないとし「大統領だった時とは違う人物になった」と指摘。
クーリエさんも「政府による市場介入が少ないほど、長い目で見れば私たちはより良い生活を送ることができる」と、保護主義的な政策から距離を置く。
その上で「民主党も共和党ももっと良い候補者を選ぶべきだ」と突き放した。
▽骨抜き
2024年大統領選の共和党候補指名争いを独走するトランプ氏は、民主党のバイデン政権が主導する新経済圏構想「IPEF」について、大統領に返り咲いた場合は破棄する考えを表明。
物価高が続いて有権者の不満が高まる中、経済政策の大幅な転換をアピールしている。
トランプ氏は2017年の大統領就任後に環太平洋連携協定TPPからの永久離脱を表明した。
バイデン政権は対中国を念頭に、TPPの代わりとしてIPEFを推進している。
中国は巨大経済圏構想「一帯一路」などで新興・途上国への影響力を増している。
IPEFを主導してきた米国が離脱することになれば、中国への対抗軸が骨抜きとなるのは必至だ。
IPEFには日米韓やオーストラリア、東南アジア諸国などインド太平洋地域の計14か国が参加。
貿易や供給網強化など主要4分野で交渉を進め、貿易以外の3分野で合意している。
(2024年6月1日号に掲載)