テロの不安を募らす米社会、大統領選の重要争点に
有権者の83%が懸念、オバマ政権の政策は不十分?
2015年12月1日
パリ同時多発テロ後、海を隔てた米社会に不安の波が押し寄せている。
来年11月の大統領選では過激派組織「イスラム国」への対処が最大争点の一つに急浮上。
イスラム教徒に対する排外的な主張が広がり、オバマ政権は懸念を深めている。
「イスラム国」 はワシントンやニューヨークでのテロを予告している。
ワシントン・ポスト紙の最新の世論調査では有権者の83%が近い将来、多数の犠牲者を伴うテロが国内で起きる可能性が高いと回答。
下院では「イスラム国」が台頭したシリアからの難民受け入れを凍結する法案が圧倒的多数で可決された。
さらに、野党共和党の大統領選候補者らはオバマ政権の対テロ政策が不十分だと攻撃する。
先頭走者の実業家トランプ氏は中枢テロ当時、ニューヨークの対岸で「何千人もの」 イスラム教徒らが歓喜に沸いていたとし、テロ容疑者に対しては「水責め」 などの拷問を復活すべきだと主張。
とどまることを知らない排外的な発言にも支持率が下がる兆しはない。
しかし、専門家の多くは、米国で組織的なテロが起きる可能性は欧州に比べれば格段に低いとみる。
内戦下のシリアに渡航したり、渡航を試みたりした米国人は約250人。
4,000人を超えるとされる欧州出身者に比べれば極めて少数だ。
米政府はテロ情報収集に年間700億ドル (約8兆6000億円) 前後を投入。
航空機搭乗を禁じるテロ容疑者らのリストは48,000人に及び、水際対策には力を入れている。
治安当局が警戒するのはむしろ、インターネットなどを通じイスラム過激思想に染まった一匹狼 (おおかみ) 型のテロだ。
米国では中東出身者らの社会統合は比較的安定しているとされるが、排外的な風潮が強まれば予備軍が増える恐れがある。
元国家テロ対策センター所長のマシュー・オルセン氏はこうした「ホームグロウン (自国育ち)」テロについて、「計画から実行に移すまでの時間が短く、当局が探知し、封じるのを困難にしている」と警告している。
(2015年12月16日号掲載)