「再選第一」鮮明に
世界振り回すトランプ外交
2019年7月1日
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大阪での米中、板門店 (*写真右) での米朝首脳会談をはじめ、トランプ大統領の今回の日韓歴訪は、トランプ外交が来年の大統領選での再選を最優先する「再選第一」 の行動原理で進んでいることを鮮明にした。
選挙本番の来秋にかけて世界は大きく振り回される。
注目された米朝会談。
「歴史的だが、中身のない政治ショー」との批判が支配的だが、停滞する非核化交渉の「息を吹き返させる」 (米ナショナル・インタレスト誌) との前向きな評価も一部にはある。
北朝鮮問題は大統領選の重要争点とは言えないが、大統領が直接関与して状況が改善したとアピールしやすい分野。
歴代政権、とりわけオバマ前政権との「違い」を強調するのもトランプ氏の常套 (とう) 手段だ。
今回の歴訪時にも記者団に、オバマ政権の北朝鮮政策をこき下ろす場面が目立った。
今後の再選戦略の中で「旧政権との違い」 を強調するあまり、トランプ政権が北朝鮮との安易な妥協に踏み出さないか注意が必要だ。
同様の懸念は他の問題にも当てはまる。
日本を慌てさせた日米安全保障条約の見直し発言。
もともとは2016年の前回大統領選の選挙戦以降、トランプ氏が繰り返していた主張で、中身は新しくなかった。
安保条約は日本が守られるだけの「不平等条約」で正さなければならないのに歴代の米政権は何をしてきたのかという信念に近い思いがあるようだ。
「旧弊打破」の精神をここでも発揮されると日本にとっては厄介な問題となる。
日本側に求められるのは冷静さだろう。
金融市場や経済界の関心がより強かった米中会談の結果にも「再選第一」が如実に表れた。
米経済に深刻な打撃を与える追加制裁関税「第4弾」発動を直前までちらつかせながら、貿易協議の再開で折り合った背景に、株価急落などの混乱を避ける思惑がみえる。
中国のハイテク企業、華為技術 (ファーウェイ) に対する米国企業による取引容認は、禁輸に苦しむ米半導体企業などが一息つける環境をつくった。
米経済は景気指標の上で好調を保っているが、1年半後の大統領選まで続く保証はなく、むしろ今より悪化すると考えるのが自然だ。
米中貿易戦争の影響をはじめ、米国内の景気は選挙戦を決める最重要ファクターだ。
米中会談で、トランプ氏は経済悪化リスクの最初の芽を摘んだともいえる。
一方、中国側は米国の選挙を見据えて「持久戦」の構えだとの観測も強まっている。
米国内には、党派を問わず厳しい対中政策を求める声が強く、政権は今回のような譲歩ばかりを続けられない。
「一時停戦」となった米中貿易戦争の行方は波乱含みだ。
(2019年7月16日号掲載)