各国のヒバクシャ連帯を
核被害地巡る米豪の研究者
2019年8月4日
核実験や原発事故などで被ばくしたり、故郷を失ったりした人々を約10年かけて訪ねてきた米国人とオーストラリア人の2人の研究者がいる。
「世界に散らばる記憶を集めて被害の実相に迫るとともに、核廃絶を求める『ヒバクシャ』の連帯を生み出したい」と語る。
米国出身で広島市立大のロバート・ジェイコブズ教授 59) と豪マードック大のマイケル・ブロデリック教授 (60) は2008年頃から、米国や旧ソ連の核実験場となった太平洋の島々やカザフスタン、原発事故が起きたチェルノブイリの当時の住民のほか、実験に関わった元軍人らから聞き取りをしてきた。
ジェイコブズ教授は「広島と長崎への原爆投下後も核開発競争によって多くのヒバクシャが生まれた」と指摘する。
被害に関する研究は疫学的なものが多い上、個々の実験や国家の枠だけで収まり、横断的な研究は進んでいないという。
2人はいずれも第二次大戦後の社会が原子力を受け入れてきた過程を研究してきた社会学者。
伝統文化や生活、家族関係など身体以外の影響にも目を向けた。
米国が実験を繰り返したマーシャル諸島。
住民にとって土地は先祖から受け継いできた「財産」だったが移住を強いられた。
1991年まで旧ソ連最大の実験場があったカザフスタンでは、伝統的な暮らしを維持した住民が残留放射線による内部被ばくのリスクを抱えることとなった。
共通するのは、大国の旧植民地や統治領などで政治的に弱い立場の人々が放射線の影響下に置かれた点だ。
さらに、当局は情報操作によって放射線の危険性を隠した。
他の被ばく地の存在を知らないコミュニティーも少なくない。
2人は「核の植民地主義」と表現する。
被ばく者同士をつなげ、経験や知識の共有も目指す。
2014年と2015年には各地の被ばく3世を一堂に集め、タブレット端末を使った証言の記録方法を教えた。
マーシャル諸島やカザフスタン、日本などから延べ13人が参加、交流した。
ブロデリック教授は「彼らが歴史の継承を担う地域のリーダーになる。
私たちはその 『種まき』を続けていきたい」と話す。
(2019年8月16日号掲載)