Thursday, 28 March 2024

分断の背景に予備選の弊害

 

分断の背景に予備選の弊害

大統領罷免、選挙が王道

2020年2月5日

© Mo-padri / shutterstock.com
トランプ大統領は最大の危機だった弾劾裁判を無罪評決でひとまず乗り切った。

その意味や、秋の大統領選に向けた今後の米国政治について、久保文明・東大教授に聞いた。

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—— 予想通りとはいえ歴史的無罪評決だった。

「党派色の強まりを感じる。(弾劾前に辞任に追い込まれた共和党の) ニクソン大統領の時代には、下院で弾劾に賛成する共和党議員も反対する民主党議員もいた。クリントン大統領弾劾時には党派色が強まったが、今回はそれ以上で共和党はトランプ氏を守り切った」

—— 党派性が強まった背景は。

「トランプ氏が政治の分断を進めたと指摘されるが、分断は以前から進んでいた。トランプ氏の支持率が共和党内で非常に高く、民主党内で非常に低いのは事実だが、オバマ前大統領 (民主党) の党内外の支持率も同じ傾向にあった。当時、オバマ氏を『過去最も分断を進めた大統領』とする指摘もあった」

「背景の一つには、20世紀初頭に今の形で確立した大統領や連邦議員選挙の (政党ごとの候補者を決める) 予備選の仕組みがある。穏健派の候補はたとえ本選が安泰でも、予備選では極端な保守派やリベラル派との対決を迫られるため、左右両極化が進みやすい」

—— 今回裁判との関連は。

「トランプ氏の疑惑を問題視しつつ弾劾や証人喚問の賛成に踏み切れなかった共和党の一部穏健派議員は、選挙区でのトランプ氏の報復を恐れた。通常、現職大統領は議員選への露骨な介入を控えるが、2018年の中間選挙でトランプ氏は気に入らない共和党候補に予備選で容赦なく “刺客” を送り込む姿勢を鮮明にした。今回はその威嚇が相当効いた」

—— 無罪評決でトランプ氏は再選へ勢いづくか。

「本人はそういう姿勢を見せるだろうが、これだけ経済状態が良いのに低水準の支持率が続いている。再選の可能性は50%より少し低いぐらいとみている。もちろん民主党の候補が誰になるかにもよるが、候補が誰でも45%ぐらいの得票は可能だ。あと数%をめぐる接戦となるのは間違いない」

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◆久保文明(くぼ・ふみあき): 1956年東京生まれ。東大法学部卒。慶大教授などを経て2003年から東大大学院法学政治学研究科教授。


(2020年3月1日号掲載)