2024年4月1日
欧州連合 (EU) が世界に先駆け、人工知能 (AI) の包括規制に乗り出した。
文章や画像を作り出す生成AIが急速に普及する中、これまで巨大IT企業の規制で世界をリードしてきたEUが、AIをめぐっても先鞭 (せんべん) をつけた形だ。
ただ、開発競争は激化している。
巨額の制裁金を科され、域内企業は不利な立場に追い込まれるとの懸念が強く、規制と活用の両立が課題となる。
▽IT企業標的
AI規制法は2026年からの適用が見込まれる。
EU域内でAIを使った製品やサービスを提供する企業は、最も重い違反をしたと判断された場合、3,500万ユーロ (約56億円) か、
年間売上高の7%のいずれか高い方を制裁金として科される。
規制法により偽情報の拡散防止をはじめ、人権や民主主義を守ることを目指す。
EUは近年、IT企業を標的に膨大な制裁金を科す規制を相次いで導入してきた。
2018年には個人情報管理をより厳格化する一般データ保護規則 (General Data Protection Regulation=GDPR)、2022年に違法コンテンツの排除を義務付けるデジタルサービス法 (Digital Services Act=DSA) が施行された。
3月にIT企業の自社サービス優遇を禁じるデジタル市場法 (Digital Markets Act=DMA) の適用も始まった。
運用は厳格で、日本の検索大手ヤフーは2022年から「法令への対応コスト」を理由に、EUで日本語検索サイトのヤフージャパンやヤフーニュースの提供を中止した。
▽米国は罰則なし
「イノベーションを進めるという点では、良い雰囲気にはならない」。
EUの欧州議会でAI規制法案が採決される前日、議会の反対勢力は域内企業が萎縮することを不安視した。
米国は2023年10月、大統領令で高度AI技術を開発する企業に情報提供を義務付けたものの、企業への罰則は定めなかった。
過度な規制は他国との競争の足枷 (かせ) になりかねない。
こうした意見に配慮し、EUの行政府に当たる欧州委員会は今年1月、新興企業や中小企業を支援するため、スーパーコンピューターを開放してAI開発の費用軽減を図ると発表した。
規制と技術革新の促進を担う「AI事務所」を開設し、企業が開発に利用できる設備を備えた「AI工場」構想も掲げる。
ただ、具現化するには時間がかかるとみられる。
▽安全性主張
生成人工知能 (AI) の開発を手がけるグーグルやマイクロソフト (MS) など米4社は昨年7月、既存AIの能力を超える高度AIの安全性確保や責任ある開発を支援することを目指した団体の設立を発表した。
AIの開発をめぐっては軍事利用や犯罪などのリスクが懸念され、各国で規制強化の議論が進んでいる。
企業側が自主規制に取り組んでいるとの対応を主張し、規制強化の動きに備えている。
他の2社は、対話型AI「チャットGPT」を開発したオープンAIと新興企業のアンソロピック (Anthropic)。
高度AI「フロンティアモデル」の安全性を評価する方法を研究し、一般市民が影響を理解できるようにすると説明している。
他の企業や団体にも参加を呼びかけており、政策立案者や研究者とも協力するという。
MSのブラッド・スミス副会長は「AIを開発する企業にはそれが安全であり、引き続き人間の管理下にあることを保証する責任がある」とコメントした。
バイデン大統領は4社を含む7社のトップと会談し、AIの安全性の確認やリスク管理に努めるよう要請。
各社は取り組みを約束していた。
(2024年4月16日号掲載)