2024年4月1日
「民主主義の終焉 (しゅうえん) へようこそ。完全に崩壊させるためここに集まった」。
2月下旬、首都ワシントン近郊で開かれた保守派の会合でジャック・ポソビック元米軍将校が呼びかけた。
「1.6では達成できなかったが、やり遂げるぞ」
2021年1月6日の議会襲撃の再現を匂わせて拳 (こぶし) を突き上げると、大歓声が起きた。
結集したのは大統領選で共和党候補指名を確実にしたドナルド・トランプ前大統領 (77) を熱狂的に支持する「MAGA (マガ)」と
呼ばれる人たちだ。
トランプ前大統領のスローガン「米国を再び偉大に」の頭文字から取ったMAGA。
今や共和党内で大手を振り、政界を牛耳るエリート層を破壊する「世直し」の体現者としてトランプ氏を崇拝する。
「1日だけ独裁者になりたい」。
MAGAを一過性ではない「社会運動」だと誇るトランプ氏は専制主義への渇望を隠さない。
民主主義という建国の理念を真っ向から否定する言葉すらMAGAには神託のように響く。
▽変貌
ポソビック氏が登壇したのは、保守政治行動会議 (The Conservative Political Action Conference=CPAC) の年次総会。
従来は大統領選の共和党候補が出席し、保守層の反応を見極める舞台となってきた。
今回は主催者側がトランプ氏を「次期大統領」と紹介。
MAGA一色に変貌した。
会場には議会襲撃をテーマにしたピンボール台も設置され、参加者らが興じていた。
「選挙を盗むな」「フェイクニュース」。
盤面には前回大統領選で民主党のジョー・バイデン現大統領 (81) に敗れた結果を受け入れようとしないトランプ氏の主張が並ぶ。
ポソビック氏は海軍情報将校から転身した評論家で、議会襲撃はトランプ支持者ではなく極左勢力が引き起こしたとの陰謀論を唱える。
「トランプの軍隊」を自負する極右組織と関係がある危険人物と人権団体はみなす。
第2次トランプ政権を実現するため「バイデンの掲げる民主主義」を否定するポソビック氏に悪びれる様子はない。
▽継承
自分を刑事事件の被告人にしたとしてバイデン氏への復讐を誓うトランプ氏。
ハーバード大教授のスティーブン・レビツキー氏によると、独裁主義的かどうかを見極める行動全てで「陽性反応」を示す。
CPACに登壇したトランプ前政権のスティーブ・バノン元大統領首席戦略官は、MAGA思想はトランプ後も継承されると自信を示した。
「MAGAは今後50年米国を支配する」
▽聖書絶対
米国でキリスト教福音派が、11月の大統領選で共和党候補指名を確定させたトランプ前大統領への傾斜を強めている。
聖書を絶対視し、人工妊娠中絶や性的少数者の権利擁護に強く反対。
バイデン民主党政権のリベラルな政策を徹底的に批判するトランプ氏と共鳴し、強固な集票力で選挙戦を下支えしている。
福音派は米国の成人の4分の1を占める。
南部から中西部に跨 (またが) る「バイブル (聖書) ベルト」に多い。
政治活動を本格化させたのは1970年代以降。
反戦運動や女性解放運動が台頭し、最高裁が1973年の「ロー対ウェード」判決で中絶を憲法上の権利だと認めた。
社会のリベラル化に危機感を募らせ、1980年大統領選で共和党レーガン氏の圧勝を支え、歴代共和党政権と深く結び付いてきた。
*Picture:© Barry Paterson / shutterstock.com
(2024年4月16日号掲載)